中国山東省青島市郊外のホテルで、日々変わり行く中国を観察している現地滞在のフリーライターがいる。福岡と青島を定期的に行き来している彼に、リアルな中国の今をレポートしてもらった。
青島市内から車で約1時間半の距離に、黄海に面した海陽市という都市がある。5km以上砂浜の海岸線が続く風光明媚な都市だ。その海岸沿いの約20m2、ヤフードーム3個分の広さに日本式の温泉リゾート開発が進められている。このリゾート計画は5年以上前から特別環境保全リゾート開発区(総300万m2)の一環として官民一体となって進められてきたものだが、開発途中には紆余曲折もあったようだ。
2008年、このプロジェクトに参加したジャスダック上場の(株)エムクリエイトは倒産、10年には東証1部上場の(株)ゼクスが参加を表明したものの数ヶ月で上場廃止となっている。不動産不況の日本企業にとっては「バラ色のワナ」だったのかもしれないが、それでも、こうした日本企業のドタバタ劇を尻目に、粛々と開発は進められている。
経済成長著しい中国の人々とって観光やリゾートは豊かさの象徴として、富裕層を中心に広がりつつあるようだ。青島市内の旅行社によると、日本に旅行経験のある中国人のうち日本の温泉旅館や温泉センターが最も印象に残ったという人が増え、ツアーには温泉入浴を組み入れることが多くなったという。たしかにネット上でも日本文化の象徴として「温泉」を題材にしている記事も多く見かけるようになった。
北京鳳凰網は日本文化のコラムで、日本の温泉の原点は「男女混浴」だと写真付きで報じている。日本ではたしかに混浴はあるものの、写真のようなシーンに出くわすことはまずないだろうが、この記事を見た中国人の読者は、「こんな文化があるなら、ぜひ日本に行ってみたい」とコメントを掲載しているのだ。
多少は折れ曲がった文化認識であっても、それが日本観光の引き金となり、日本の温泉地が浮揚することになればとてもいいことだ。
きっかけはどうであれ、青島市にいる760万の人々が温泉文化に少しでも触れることで、車で約1時間半の距離にある日本式の温泉リゾートは大賑わいとなるであろう。
【杉本 尚丈】
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