これまでパラマウントと表記してきたが、パラマウントピクチャーズは1994年にアメリカのメディア大手バイアコム(現CBSコーポレーション)に買収され、今ではその傘下の一社におさまっている。バイアコムといっても日本では馴染みが薄いと思う。少しだけ説明をすると20世紀初頭に設立されたメディア企業で、現在、グループ傘下には3大ネットワークのひとつであるCBSやミュージックビデオの火付け役となったMTVなどを抱える。米国では並ぶもののない最大手のメディア企業である。このグループの一角がパラマウントピクチャーズであり、その誘致ということは米国メディアグループの拠点を誘致することにもつながるのだと山崎社長は言う。
「バイアコムは世界で2番目(1番は20世紀フォックス。グループ本社はオーストラリア)のメディアグループで、アメリカでは1番手です。それだけ大きいということは、その分だけコンテンツが豊富だということを意味します。拠点を設置することができたならば、そこから派生するビジネスの可能性は無限に広がります」(山崎社長)。
しかし、「アメリカ最大手のメディア企業が福岡に!」「あのパラマウントピクチャーズが来るかもしれない!」といった声が疑心を生んだ。
「そげんな大きかところが福岡に来るはずなかろうもん」。
「なんば夢のごたる話しをしとるとやろうか」。
世間の目は最初から冷ややかだった。構想を報ずるメディアも、おおむね世間と同じ論調を展開し、批判的なコメントを寄せた。そして現在、そんな話もあったかと忘れられる計画となってしまっている。たしかに計画は右往左往してしまった。計画が発足した頃はアイランドシティに誘致する予定だった。それから久山町に、そして宗像市に。それぞれ深度こそ違えども実現の一歩手前までこぎつけていた。けれども結局、夢を実現するには至っていない。
そこには日本人の保守気質とでも言おうか、前例のないものに対する恐れと言おうか、複雑な心の事情が絡んでいたのである。そもそもこのプロジェクトは出発点から先行きに不安を感じさせるものだった。
【柳 茂嘉】
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