中国山東省青島市郊外のホテルで、日々変わり行く中国を観察している現地滞在のフリーライターがいる。福岡と青島を定期的に行き来している彼に、リアルな中国の今をレポートしてもらった。
中国のほとんどの中核都市では日本人向けのフリーペーパーが発行されている。青島でも70ページほどのフルカラーで印刷された「青島千百度広告」(コミュニケーション)というフリーペーパーがある。生活情報から食事処、ナイトスポットまで全部日本語で書かれているので、とても重宝する雑誌だ。中国に出張や赴任した人々にとって、昼間のストレスから枯れた心を癒すためのこのうえない情報源なのだ。
ある夜、この情報誌を頼りに一軒の日本式ナイトクラブへ向かうためタクシーに乗った。おおよその地図は頭に入っていたので、雑誌の地図はタクシーの運転手には見せずに行き先を告げた。「昨日今日ここへ来た旅行者じゃないんだぞ」と見栄を張ったのだ。見覚えのある交差点に来たので、「そこを左に曲がって」と運転手に言ったが、いっこうに曲がってくれない。「左、左」と何度も伝えても、怪訝な顔をするだけで曲がってくれないのだ。しばらくタクシーは走りつづけ、とてもいかがわしい建物の前に止まった。運転手が建物のなかまで案内しようとするのだが、冒険心もほどほどに、なかには入らずチップを渡してタクシーには帰ってもらった。それから、見覚えのある交差点まで歩いて戻り、雑誌の地図を片手に目的地へ向かうことにした。
「なぜだろう?この交差点を左折すれば、すぐに着いたのに。あの運転手はとんでもないやつだ」と自問自答しながら2kmほど歩くはめになってしまった。目的のナイトクラブに着くと、「いらっしゃいませ~」の日本語。その日本語を聞いてほっとしながら、妖艶なクラブ嬢に先ほどのタクシーでの出来事について尋ねてみた。彼女はケラケラと大笑いしながら、「左に曲がるのは<左拐(ズオグァイ)>、あなたが何度も言ったのは<做愛(ズオアイ)>、グの字を忘れているから、間違って運転手が気を使ったのよ」と教えてくれた。
文字どおり、中国語で「做愛」(ズオアイ)はSEXのこと。変な日本人がタクシーのなかで大声を出して「SEX、SEX」と叫んでいたものだから、運転手は気を利かせて、自分の知っているその場所へ案内したのだろう。運転手はいい人だったのだ。この店でのその後の話題は、なぜかしら下ネタばかりになってしまい、またひとりスケベな日本人が誕生した。
ちなみに、スケベは色狼、もっとスケベは色鬼、漢字で書けばよくわかる。
【杉本 尚丈】
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