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天国と地獄の狭間~新興デベロッパーの倒産から再出発までの600日の記録 (154)
経済小説
2011年5月22日 07:00

 6歳の娘は、本当に目に入れても痛くないといっていいだろう。
 晩婚で、しかも子供嫌いであった私が、子を儲けると人の子供を見てもかわいいと思うようになり、レストランや乗り物などで他人の子供が泣き叫んでも、にこやかな表情を崩さずにいられるようになった。

毎日15分、娘にピアノを練習させた... そして、ついには娘の保育園の「父母の会」の会長を仰せつかることとなった。しかし会長を引き受けたものの、民事再生の申立日と保育園のバザーがほぼ同時期となってしまった。もともと父母の会の会長職はまとめ役というか挨拶役であるため、実務は周りのお母さん方がやってくれたので仕事に支障はなかった。
 そういえば、保育園の運動会のときも、開会式で父母の会会長として挨拶をさせていただき、その後、抜け出して会社の会議に参加したこともあった。
 なお父母の会会長については、私は民事再生後の役員会で、辞任も含めて役員に判断を委ねた。地元の保育園であり、園児保護者には当社の倒産で迷惑をかけた先の従業員などもあると思ったからである。結果、「会社は会社、仕事は仕事でいいのではないか」という意見が大勢であったので、会長職は娘の卒園まで継続することとなった。
 会長職を引き受けたのは、平成20年の4月である。会社もこれから厳しくなるという時期であったため、出来ればほかの人に、と思ったがほかに会長を引き受ける人がいなかったので、「実務はできませんよ」ということを条件にお引き受けしたものである。しかしこのことも、私にとってはプラス面の多い経験であった。

 家では、帰宅が遅い日以外は毎日のように、娘を風呂に入れてやり、寝る前に絵本を読んでやった。朝は朝で、毎日15分、娘にピアノを練習させた。そのあと、保育園に登園させたうえで出勤するのである。
 会社でどんな心労を抱えようと、娘の笑顔にすべてが癒された。民事再生が進み、事業譲渡が済んでしまうと少し時間に余裕が生まれたので、申立前後の深夜帰宅の日々を埋め合わせるように、毎日のように6時に会社を出て娘の相手をしたものである。

 そうして22年4月、娘は小学校に入学した。
 以前は近所のセレブ向け私立に入れることも考慮していたが、倒産会社の役員ということでは経済的な問題はもちろん、身分的にも受け入れられないであろうと考え、娘は公立校に入学させることとした。

〔登場者名はすべて仮称〕

(つづく)

≪ (153) | (155・終) ≫

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