さらに状況を悪くしたのが山崎氏のあずかり知らぬところで起こった新株詐欺事件である。パラマウント誘致に関連して発行されたとされる未公開株券が巷に現れ始めたのだ。もちろん、これは山崎氏、同氏の会社である日本トレイド、米国パラマウントとは一切関係がない。つまりは偽株券である。ただし、関係はないが、世間はそう認識しなかった。
「やっぱり詐欺の片棒を担いでいるのではないか」
「結局、嘘の投資話でお金を集めて逃げてしまうのではないか」
効果は絶大だった。マスコミは偽株について取り上げる。住民はますます不安になる。計画は風前のともしびとなった。そして、地元の地権者たちは語気を強くする。
「開発には1,000億円からのお金がかかると言っているじゃないか。そのお金を見せないと、本登記を許すわけにはいかない」
1,000億円以上の投資が必要なことは間違いなく、その資金がなければ計画が実現することはないのも確かなことだ。ただ1点、見誤っているのが、それが「どういう順序で」得られていくかということである。
山崎氏、および米国側の描く青写真は、まず地元の協力と了解を得てから、投資を募り建設に着工するというものだった。つまり、住民の協力と了解の証拠として本登記がどうしても必要だったのだ。これは気持ちだけのことではなく、法的にも仮登記では問題があるとの指摘を受けていた。したがって本登記への移行を頼んだのだった。ところが地権者たちは「ひょっとして騙されているのかも知れない」という不安から順序を取り違えてしまったのだ。工事を始めるのならお金があるはず、と。これの意識のずれが将棋を詰ませてしまった。交渉は進まなくなり、右にも左にも動かず、新たな提案もできなくなってしまったのである。その結果、久山町でのテーマパーク計画はなくなってしまったのだ。
ちなみに、地権者たちが渋った本登記への移行、これは実は地権者たちにはノーリスクなのも指摘しておかなくてはならない。賃借の本登記というものは「いついつまで、ここの土地を借り受ける」というものであり、主に遊休地であった土地から地代が得られるというもの。要は土地を貸す、借りる、それだけで地権者に出資をさせたり、開発をさせたりといった責任を負わせるという類のものではないのである。逆に、建設実行の是非にかかわらず賃料支払いの義務が山崎氏側にかかってくるのだから、登記をしていた方が安心できるはずなのだ。また、遊休地が生きた土地に変わるのならば、願ったり叶ったりではなかったろうか。それが疑念の積み重なりによって消えてしまったのである。
【柳 茂嘉】