現在の日本は何処か特定の「国」との戦争に敗北したわけではない。しかし、これは象徴的な意味で「敗戦」であると私は考えている。
戦後、日本はまず1990年代にアメリカとの間で「マネー敗戦」を経験し、今年、「原子力敗戦」を経験した。終戦後は価値観が崩壊し、アノミー状態が生まれる。その状況に各国は冷酷に反応する。アメリカの「トモダチ作戦」も視点を変えれば、震災後の混乱状況に乗じて、アメリカの国策にかなう形で日本をコントロールしようとする狙いがあるかもしれないのである。
今回の原発震災の対応にあたり、アメリカは繰り返し日本に情報公開を求めるばかりではなく、本国のNRC(原子力規制委員会)から米軍、専門学者にいたるまで数十人にもおよぶと言われるアメリカ人を首相官邸に一時ではあれ常駐させていたという。これは「朝日新聞」が報道した。
さらに米財界と戦略国際問題研究所(CSIS)と日本経団連は、復興プロジェクトを行なうための数十人規模のタスクフォースを立ち上げている。一歩間違えば、これは進駐軍であり、「軍隊なき占領」というべき事態だ。そういう「日本再占領」が始まっている。
その素早いアメリカの行動力には私は舌を巻くしかない。アメリカは安全保障面では中国をいかに封じ込めるか、経済面ではTPP(環太平洋パートナーシップ)などの自由貿易・囲い込み体制をつくり上げることで、太平洋において中国との新しい「ソフトな冷戦」をやろうとしている。そのための戦略タスクフォースなのであり、その大きな目的のなかに日本の「震災復興」は位置づけられるのである。
震災直後に宮城県や岩手県に派遣された米軍の救援部隊は子供たちにチョコレートやガムを配ったと読売新聞が報じていた。ああ、この国はもう一度戦後からやり直すしかないのだな、とその記事を読んだ時に感じたものである。
放射能恐怖によって「原発アノミー」の状態に陥った日本。それにもかかわらず、この国は、この新しい国際環境のなかをしたたかに生き残らなければならないのである。それにしても、被災地の議員であり、被災地の復興に強力なリーダーシップと方向性を与えるべきはずの小沢一郎元民主党代表の動きに全くキレがないのは残念である。今こそ求められる人材のはずなのだが、どうしたのだろか。
この今の日本を小室直樹博士が生きておられたらなんと言われただろうか。それが今気になっている。
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<プロフィール>
中田 安彦 (なかた やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。
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