出張や旅行などで訪れた歓楽街で、店員にグルメや歴史・文化、観光名所といった、その土地のことを聞いたことがある人は少なくないだろう。小生が聞かれる立場だったら、嫌がられるほど長崎のお国自慢をする。
ところが、「よく歴史が埋もれてしまっている」といわれる福岡では、数年間住んでいても、自宅の近所に史跡があることすら知らないこともある。以前にも書いたが、西中洲にある貴賓館が、国の重要指定文化財であることを知っている人がどれくらいいるだろうか。要は、人が来ないと語り継がれることが減り、次第に忘れられるということなのだ。
5月18日、中洲で4店舗のキャバクラを経営するMLHグループが、系列店で働く女の子たちが参加する博多の史跡めぐりツアーを実施した。同企画は、福岡・博多の歴史や文化に触れることで、そこで得た知識を接客に活かそうというもの。同グループの社員と女の子たちで構成され、福利厚生のほか、各種イベントを企画する「MOC会」による自主的な活動の一環として行なわれた。史跡めぐりツアーは、昨年(2010年)2回実施され、今回が第3回目。男性社員を含めて29名が、出発地の櫛田神社に集合した。
ツアーは、ふた組に分かれて、ボランティアのガイドさんとともに歴史ある博多の寺社などをまわった。櫛田神社、博多町屋ふるさと館、承天寺、妙楽寺、聖福寺などをめぐり、最後は木造座像では日本一ともいわれる東長寺の福岡大仏を見学した。ツアーに要した時間は約2時間。日頃、運動不足の小生には少々こたえた。
しかし、ガイドさんの丁寧な説明に「そうだったのか!博多史」と疲れを忘れて、度々、感銘を受けることがあった。今回が2回目の参加となる「月下美人」店の樹里さんは、「福岡大仏のお香の匂いがとても良くて印象に残りました。お客さんとは福岡の食べ物の話をすることが多いけれど、今度からは見学したお寺や大仏の話もしたいと思います」と、感想を述べた。
今回参加した女の子のなかには、3回連続で参加している子もいるという。お店の接客に活かすということだけではなく、若い世代に歴史・文化に触れる機会を設けることは、福岡全体を盛り上げるという意味でもたいへん有意義ではないだろうか。以前、同グループの土屋社長は、人の入れ替りが多い業界の特性をふまえたうえで「それでも人材育成は続けていかなければならない」と語った。仕事は勉強の場でもある。いずれ中洲を離れたとしても、よそで通用する人になってほしいという想いを持つ中洲の経営者は多い。
店のスタッフだけでなく客に対しても「人を育てる」という姿勢が、中洲の伝統のひとつであった。時代とともに業態も変わっていくこともあるだろう。しかし、その基本的な姿勢はずっと大事にしていただきたい。
【長丘 萬月】
長丘 萬月(ながおか まんげつ)
1977年、福岡県生まれ。雑誌編集業を経て、2009年フリーライターへ転身。体を張った現場取材を通して、男の遊び文化を研究している。
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