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特別取材

市民と共生する博物館(7)~市民にどう還元するか
特別取材
2011年5月 5日 07:00

九州国立博物館 館長 三輪 嘉六 氏

 日本からアジアへ飛び出してビジネスしようとする場合、よく「相手の歴史・文化の違いを把握しておく必要がある」と言われる。商習慣の違いなどにつながるからだが、では日本人は本当に自国の歴史・文化をきちんと踏まえたうえで海外進出を考えているのだろうか。観光についても同様のことが言える。こうした問いに答えるヒントを得るべく、九州国立博物館館長の三輪嘉六氏に、長く歴史・文化の分野に携わってきた立場から話を聞いた。

(聞き手、文・構成:I・B編集長 大根田 康介)

 ―日本の歴史研究の世界は、研究自体が現実とそれほどリンクしてこなかった側面があると思います。そういう意味では、網野善彦さんなどはそれを強く意識していたと思います。

 三輪 網野先生はいっしょに仕事をしたこともありますが、むしろ「民衆」に視点を置いたことに網野史学の新鮮さがあったわけです。学問的な成果を市民に還元したのが評価されました。私も研究者の片隅にいる1人として見た場合、学問的な成果はそれだけで終わってしまうのが問題点です。本来はそれを市民にどう還元するか、たとえば博物館を使ってどう還元するか。それが「市民と共生する」というテーマにつながると思っております。
九州国立博物館 館長 三輪 嘉六 氏 日本の博物館は100年以上の歴史があるわけですが、そのなかで市民という視点が本当に少なかったのです。そうした視点を持つことで「文化観光」が新たな文化力として発揮されると思います。日本の博物館は決して権力を誇示するような場所ではないはずです。
 ただ一方で、歴史研究に関しては「学術的研究」というかたちで研究者としての権威を示したいという思いがあったのかもしれません。それも大事かもしれませんが、それが市民にどう還元できるかという調査や研究が必ずしも伴わなかった。そんなことも達成できて、初めて「文化観光」になると思います。
 また、博物館は歴史や文化を見る場と思ってしまいますが、そうではなくて館全体を見ていただきたい。我々は博物館を多目的に活用しております。バックヤードを見ていただく、あるいは子どもたちとのワークショップのあり方を見てもらう、市民が参加する展覧会を見てもらう、すべてそういう視点です。
 今までそういう開放的ではなかった部分があったのも、市民の足が遠のいていた理由の1つかもしれません。その改善が観光にも結びつくと思います。

(つづく)

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<プロフィール>
三輪 嘉六 氏三輪 嘉六(みわ かろく)
1938年岐阜県生まれ。奈良国立文化財研究所研究員、文化庁主任文化財調査官、東京国立文化財研究所修復技術部長、文化庁美術工芸課長、同文化財鑑査官、日本大学教授などを経て、2005年から現職。専門は考古学、文化財学。現在、文化財保存修復学会会長、NPO法人文化財保存支援機構理事長、NPO法人文化財夢工房理事長、「読売あをによし賞」運営・選考委員など。主な著書に、「日本の美術 348家形はにわ」(至文堂、1995年)、「美術工芸品をまもる修理と保存科学」(『文化財を探る科学の眼5』国土社、2000年)、編著に「日本馬具大観」(吉川弘文館、1992年)、「文化財学の構想」(勉誠出版、2003年)など多数。


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