巨大地震と津波による甚大な被害がもたらされた東日本大震災の被災地では、復興活動が急ピッチで進められているものの、その被害規模の大きさから、仮設住宅の建設などに遅れが生じている被災地も多い。
現在、ボランティア活動を兼ねて被災地の取材を続けている特派員の報告によると、同震災発生から2カ月が過ぎ、いまだ避難所生活を余儀なくされている被災者の間では、慣れない集団生活によるストレスが蓄積され続け、さまざまな理由で喧嘩が起きることがあるという。以下、特派員のレポートである。
<喧嘩の理由は飼い犬>
23日、ボランティア活動の最中に、にわかには信じられない話を地元住民から耳にした。ある避難所では、日常的に住民同士の争いが行なわれており、特定の住民を避難所から追い出そうとする動きがあるという。
知的障がいのある子供を持つAさん(匿名希望)の一家は、津波の被害を受け、犬を連れて避難所へ逃れた。通常、ペットを避難所に持ち込むことは禁止されているが、犬を避難所の外に出すと子供が泣きやまなかったため、自治会長が特例を与えて許可していた。避難生活当初は、嫌がらせを受けることもなかったが、避難所での生活が長くなるにつれて派閥が形成され始め、発言権を増していった数人が「何でお前のところだけ犬を飼っているんだ」と嫌味を言われるようになったという。
避難所内で風邪が蔓延した際、Aさん一家は、「犬の毛のせいで風邪が蔓延したんだ。周りの迷惑も少しは考えろ」と派閥のメンバーから言われ、避難所を出て行かざるを得ない状況に置かれた。その後、自治会長と派閥のトップ、Aさんとで何度か話し合いが行なわれたが、問題解決には至っていない。Aさん一家は、震災から2カ月以上経過した現在も避難所生活を続けているが、周囲の目は冷たく避難所に居づらいという。
Aさんの自宅は床上まで浸水しているため、一度家を取り壊して新築する予定だが、その完成時期は未定。それまでの間、避難所生活を続けるほかなく、Aさん一家は、精神的に大きな負担を強いられる。Aさんは取材に対して「家を早く建て直して、避難所を出て行きたい。周囲に気兼ねなく生活したい」と、心中を語ってくれた。
【特派員:中山 俊輔】
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