さて、一体どうしたものか―。帰り際、目の前に出されたレシートには、法外な金額が記されていた。さらに大きな問題は、そこが異国の地、中国・上海であるということだ。
ほろ酔い気分で魔が差して、無邪気な冒険心で見知らぬ店に飛び込んだのがマズかった。サッカーの日韓戦どころではない、伝説の戦士が戦友を助けるために飛び込んだ戦争直後のベトナム並のアウェイ(敵地)である。いつ、青龍刀が飛び出してきても不思議ではない。残念ながら、小生には近接した敵を豪快にさばくナイフもなければ、鋼の肉体もない。
請求された金額は約1万元。日本円にすると約14万円である。入る前に聞いていた話は300元。別料金で青島ビールが1杯50元(これも高いが...)。30倍近い料金が請求されたことになる。案内された部屋は2畳分くらいの狭い質素な個室。接客した女の子がひとりで、とりわけ豪快な遊びをしたわけではない。それでも後になって「こんなにゴージャスなサービスをしていて300元なんてありえないでしょ!」と、ママさんが怒り気味に言ってきた。こちらも「300元としか聞いていない」と反論するが、お互い紙を交わしたわけではないので、"言った、言わない"の論争である。
しかし、"敵"には誤算が生じていた。小生は財布に1,000元にも満たない現金しか入れていなかったのである。話が進むうちに相手の弱みも見えてきた。どうも彼らは、外国人観光客をエモノとしてねらい、さんざん脅してクレジットカードを取り上げ、店でそのカードを切るなり、現金を引き出させたりするのが必勝マニュアルだったようだ。
そのため、クレジットカードを持ち歩いていなかった客は、まさに"想定外"。開き直って「こちらは払いたくても現金がない」と説明する小生への対処に困惑していた。小生を囲んでいた少し日本語が話せるチーママが「あなた、日本人でしょ。クレジット持っていないなんてありえない!」と言って、天をあおいだ。
しばらくすると、よくあるパターンだが、屈強な男ふたりが個室に入って来た。小生から財布を取り上げ、中身を調べ始める。相手にとっては皮肉な話で、クレジットカードはないものの、ビデオレンタル店の会員カードなど、まったく支払いには役立たないカードが数枚入っていた。そして、1枚ずつ質問された。
「それはTポイントカード。それはタバコカード(taspo)。あっ、それは、サブウェイカード(福岡市営地下鉄・はやかけん)」と、小生が拙い英語で1枚ずつ説明する。正直、ポイントがある程度貯まっているTポイントカードとはやかけんは取られたくはなかった。しかし、2回も3回も繰り返し質問されるうちに面倒くさくなって「もういい、あげる!」と言い放った。すると、ママさんは「そんなのいらないネ!」と、カード類を突き返し、深いため息をついた。
お互いの言い分を出し合って、どうしようもない空気が個室のなかに蔓延した。さて、いかにしてこの敵地から脱出するか―。次回は脱出編をお届けする。
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