中国山東省青島市郊外のホテルで、日々変わり行く中国を観察している現地滞在のフリーライターがいる。福岡と青島を定期的に行き来している彼に、リアルな中国の今をレポートしてもらった。
青島市中心部からバスで20分ほど行ったところに、台東(タイトン)という街がある。19世紀末、ドイツ租借地時代から中国人居住区の商業街として整備され、発展してきた地区だ。この街の特色である延々と続く歩行者天国の道路では、衣類をはじめ雑貨や食料品などのたくさんの商店や屋台が軒を連ね、連日朝から夜遅くまで多くの人でにぎわっている。
数年前まではスリやたかりも横行して治安が悪く、とても外国人がひとりで歩ける街ではなかった。いまではマクドナルドやケンタッキーなど外国資本の飲食店も多くなり、秩序ある「若者が集まるショッピングゾーン」への変貌を遂げつつある。
その秩序形成の一翼を、青島市内に唯一、ここだけにしかない「野外エスカレーター」が担っている。2008年に完成したこのエスカレーターは長さ35m、中国ではめずらしい歩道橋に設置されているエスカレーターなのだ。
このエスカレーター付歩道橋が完成するまでは、歩行者天国の道路を交通量の多い車道が横切り、お互い交通ルールを守らない歩行者と車、罵声とクラクションの戦いが1日中繰り広げられていた。この歩道橋が完成したおかげで車は渋滞もなくスムーズに走れ、車道を横切る歩行者もほとんどいなくなったという。
エスカレーターを上れば、眼下に歩行者天国の人並みを一望できる。けっして追い越す人などいない「ひとり立ち幅」のエスカレーター、しばし心の安らぎを感じているのか、エスカレーターをせわしなく歩く人の姿は見当たらない。
こうした副次的なインフラ整備が人々に落ち着きを与え、やがて秩序ある社会の形成に寄与していくのであろう。
【杉本 尚丈】
*記事へのご意見はこちら