中国山東省青島市郊外のホテルで、日々変わり行く中国を観察している現地滞在のフリーライターがいる。福岡と青島を定期的に行き来している彼に、リアルな中国の今をレポートしてもらった。
青島市内中心部から車で30分ほど北へ向かうと「李村」という地域がある。名前が示すとおり以前はさびれた農村であったが、近年は高層マンションが相次いで建てられ、新興住宅街となっている。この街の中心部を流れる李村川の河川敷では、2と7のつく日、つまり5日ごとに巨大な露天市「李村集」が開催される。「集」という中国古くからの名を残す100年以上の歴史がある有名な市場なのだ。
市場の長さは3kmにおよび、ヤフードーム5個分に相当する敷地に2,000店以上の露天商が並び、中国各地から10万人以上の買物客が訪れるという。肉、魚、野菜などの生鮮食料品から衣類、家電品、車に至るまでありとあらゆる品物が所狭しと並んでいる。どの商品も驚くほど安い。なかには、1錠50円ほどのバイアグラやいかがわしい薬も平気で売られている。
この市場、防災、防犯、環境衛生上の理由から、これまで幾度となく当局から閉鎖の方針が打ち出されてきたという。この敷地の地主である河川はドブ川と化し、異臭を放っている。2007年には突然の暴風雨で川が氾濫し、多くの死傷者を出した経緯もある。それでも、親子代々続いている露天商たちの補償問題などが解決せず、現在もなお市場は昔と変わらず大勢の人で賑っている。
付近には近代的な大型ショッピングセンターや高層マンションが建設中であり、今ではこの市場の周辺だけが異次元の世界に変わりつつあるようだ。こうした市場に、現在の中国が直面する都市部と農村部の所得格差や都市開発の問題点が見えてくる。はたして、農村部の人々にとって生活の糧でもあるこの巨大露天市場は今後どのように姿を変えていくのであろうか。
【杉本 尚丈】
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