言葉がほとんど通じない異国の地・上海で、ぼったくり店につかまった。請求された金額は約1万元(約14万円)だが、小生の財布には、そんな大金は入っていない。店側は脅してクレジットカードをふんだくる作戦なのだが、生憎、小生はカードを持ち歩いていなかった。
「なんで、あなたはカードがない?」と、しつこく聞かれた。「コンビニ行こうとホテルを出て、客引きに300元でいいからと誘われた。もともとコンビニで買い物をするだけだったから、大金もカードも必要ない」と、小生はたどたどしい英語ながらも丁寧に説明。「でも、あなた、お金払わないおかしいよ!」と、チーママ。取り立てが始まるまでは、カモだと思っていたのか、すこぶる上機嫌だったが、先ほどから頻繁にため息をついていた。
しかしながら、このまま狭い部屋で男女5人がひざを並べて座っていても、お互いに解決策は見つからない。主導権は次第に小生のほうへと移っていった。「ママさん、僕は今、お金を持っていない。だから、払いたくてもここでは払えない。ホテルに戻れば何とかなる」と、小生は提案した。とにかく店を離れることが先決だ。
その店の場所は、繁華街の大通りに面しており、深夜だが外に出れば人も歩いている。また、地元の人のご好意で、かなりセキュリティのしっかりしたホテルに宿泊していたため、ホテルに戻れれば、逃げ切れる可能性は高まる。
3分ほど携帯電話で誰かと話していたママさんだが、オリジナルの打開策が見つからなかったのか、小生の提案に乗った。ホテルまで屈強な男ひとりを付けて、店から出ることを許したのである。店を出た途端、急に走り出したい衝動に駆られたが、そこはグッとこらえ、左に並んで歩く男に気を配りながら、着実にホテルへと歩を進めた。
「日本のガール、かわいい? 中国のガールは?」と、お付きの男。「かわいい」と、答えた小生。わけのわからないコミュニケーションにむなしさを覚えた。
ホテルに着くと、男を連れて宿泊部屋のある階へ上がった。そのホテルは、カードキーがなければ、部屋のドアが開かないどころか、エレベーターも動かない。次の勝負は、いかにしてその男を部屋に入れずに篭城戦へと持ち込むか、であったが、部屋の前の廊下で「ここで待つ」と男。ご好意に甘えてドアを閉め、廊下の様子をうかがった。
3回ほどノックがあった後、10分ほどして男は退散したようだ。騒がしい場合は、フロントに電話をすることも考えたが、そこは相手にとって完全アウェイの場所。廊下には監視カメラもあり、エレベーターで1度下に降りれば、もう宿泊フロアには上がって来れない。うしろめたい商売をやっている以上、あまり派手にできないという弱みもある。
結局、その後の取り立てはなく、小生は無事に帰国の途についた。もっとも、これ以上、手間ヒマをかければ時間と労力というコストがかかり、ぼったくりのもうけは少なくなる。その上、リスクも高い。それにしてもそれにしても「不幸中の幸い」がオンパレードだった今回の体験談。こりない小生の好奇心には、猛省が必要なようである。
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