今回、スイスで開かれたビルダーバーグ会議の議題は、「経済成長への課題:経営革新と財政規律」「ユーロ通貨と欧州連合の課題」「新興国の役割」「ソーシャルメディア:常時接続とそれがもたらす安全上の問題」「中東が直面する新しい課題」「紛争地域」「中国」「スイス:その将来性について」だったという。
具体的な議論の内容は非公開が原則であり想像するしかないが、私が注目したいのは中東革命とソーシャルメディアのふたつがテーマに上がっており、会合にはグーグルのエリック・シュミット会長、リンクトインのリード・ホフマン会長、フェイスブックの共同創業者のクリス・ヒューズ、アマゾンのジェフ・ベゾス会長、マイクロ・ソフトの経営陣のひとりであるクレイグ・マンディーが参加していることだ。グーグルのシュミット会長は、最近も相次ぐハッカー犯罪を背景に登場してきた、ネット規制について政府による規制反対派の立場から一石を投じる発言をしている。中東革命はネット技術を駆使したアメリカ主導の「中東民主化戦略」との見方もあるだけになかなか興味深い。
不思議なことに公式に掲げられた議題のなかには、福島第一原発の事故を受けて盛り上がっている世界のエネルギー論議が含まれていない。定期的に出席していた、フランス・アレヴァ社のアンヌ・ローベルジョンの参加もないのには私も驚いた。今回の参加者でまったくの初めてというケースは、私の集計では45人以上おり、有力者不在のなか、力量が未知数の参加者が増えた感もある。
もともとビルダーバーグは、欧州連合と一体のようなところがあり、ギリシャ、ポルトガル、アイルランド、スペインを震源地に始まっている「ユーロ危機」の前にはなかなかエネルギー問題まで頭が回らないのかもしれない。現欧州中央銀行(ECB)総裁のジャン=クロード・トリシェは参加しているが、IMF専務理事選挙に立候補中であるフランスのクリスティーヌ・ラガルデ財務大臣は会議の時には中国におり、今年は欠席している。次期ECB総裁のマリオ・ドラーギも今年は欠席だ。
同じく今年の特徴は、アメリカの出席陣の弱体化である。前回まで毎年のように参加していた、アメリカのアフガニスタン・パキスタン特使であるリチャード・ホルブルックは、昨年暮れに急死。オバマ政権の経済アドバイザーだったポール・ヴォルカー元FRB議長や、ワシントン・ポストの社主であるドナルド・グラハムや近年出席していたハーヴァード大学教授のナイアール・ファーガソンの姿もなかった。また、前述のモントリオール会議の主催者であるカナダの有力財閥のポール・デスマレーも日程の関係で出席していない。
ひとつ気になったことといえば、ビルダーバーグ会議の最中に、ヒラリー・クリントン国務長官が世界銀行総裁への転身をねらっているという出所不明のニュースが流れたことくらいだ。会議にはジェイムズ・ウォルフェンソンとロバート・ゼーリックの世銀総裁を経験するアメリカ人も参加していたのだが、意図的なリークだったのだろうか。
<プロフィール>
中田 安彦 (なかた やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。
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