【最終話・組織、リーダーの本質とは？】

　――話は尽きませんが、最後に野口さん、石川さん。企業規模の大小は違っても過去、上場会社に身を置き、企業内の栄枯盛衰を肌で感じてこられたとは思いますが、企業の組織とリーダーの本質について語っていただけますか。

　野口　企業というものは、植木鉢と同じで放っておけば枯れてしまいます。倒産・破綻するエネルギーが強いのです。これは企業規模の大小を問いません。よって山水建設も然りです。国家も同様で衰退の一途を辿ります。リーダーが自分の都合の良い『宦官政治』を行なえば瞬く間に組織は腐敗するのです。企業組織の面から見ると、一言で言えば働く人々が生きがいを感じる企業組織にすることが経営者の使命でありましょう。それには、部下が共鳴しそして感銘して意気に感じるリーダーとしての素養が必要であります。行革の鬼と称され国鉄の民営化などに心血を注いできた元経団連会長の土光敏夫氏。賛否両論はありますが、我欲を一切捨て、公私とも清貧で質素倹約に努める姿に、共鳴して組織が動くということは事実として残っております。

　――リーダーが受けてきた教育も大きく関係するように感じます。

　野口　その通りで、私生活から襟を正すことが求められます。経営者の人事権という権力と相反する非権力的なこと―、すなわち人格・哲学・品行の要素も求められます。リーダーとは、大局的な判断が出来て、公平性がある人物です。それには、経営学というより一般教養、それは歴史、文学、芸術など幅広いジャンルがありますが、身に付けておかねばなりません。欧米のリーダーと言われる方々は、必ず一般教養を身に付けております。さらに人間的総合判断力。違法性がなければ金儲けのみに走るという倫理観がないところに、独裁的なリーダーの下、過酷なノルマによって無理を重ねて虚言が横行し、粉飾してしまうのです。人間として恥じることがないモラルを忘れずリーダーとして組織を作りあげていかねばなりません。

　――そして創業者の心を理解し常に原点に立ち返ることですね。

　野口　その通りです。創業者の志が企業理念です。社会に対して熱く、そして高い使命感を持っております。その志を理解し、何時も立ち返って経営していくことです。その志を末端の社員・スタッフに伝えていくことです。それは、リーダー自身が行動で示すことです。経営に特効薬はありません。常に時代に即したモノを生み出し、提供して社会に貢献しているのか。顧客が満足し、そして企業で働く人々が組織として一丸となって、企業理念に沿って活動しているのか。権力にのみ執着することなく、経営者・リーダーが本来やるべきことでありましょう。

　――石川さんはどのようにお考えですか。

　石川　私がなぜ、「天国と地獄の狭間～新興デベロッパーの倒産から再出発までの600日の記録」を執筆したのか。DKホールディングスが破綻してその後、オーナーであった黒田が残った社員と共に再生する、その過程を余すところなく事実として伝えたかったのです。破綻後は、いかに顧客（ビルオーナー）と社員を全員でないながら守れたのかを、戦略、戦術、マネジメントも含め伝えたかったのです。何を置いても、顧客を守ることを最優先させたことを決して忘れなかったことが、再起できた大きな要因であります。

　それを為しえたのは、黒田がゼロから、切磋琢磨して創業したなかで培われた人間力のおかげです。顧客・取引先、そして一緒に働く仲間との深い信頼関係を築き上げ、お互いの利益を追求してきたことに尽きると思います。上場前までは、決して無理する風土ではなく、扱う物件が大型化したことでリーマンショックに耐えきれず破綻したのですが、黒田は倒産処理にも真正面に取り組み、逃げませんでした。地元の顧客であるオーナーの利益を守れたことは胸を張れることであります。そして、ＤＫホールディングスのディスクローズ姿勢です。上場前も後も、会社の情報を詳細に渡って正直に公開してきたことで、信頼をより強めることが出来たと自負しております。250億円規模の新興企業でしたが、黒田のリーダーとしての胆力が、今もなお過去のオーナーや取引先から信頼されるという証ではないでしょうか。

　――お二方とも有難うございます。次回作を期待しております。

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