伝統工芸品「博多織」の商標をめぐり、2つの組織が裁判で対立している。1つは織元などを中心に構成される博多織工業組合。もう1つは無料着付け教室で成功を収め、「博多帯」を立ち上げたJASDAQ上場企業の日本和装ホールディングス(株)だ。どちらも福岡の地で育まれ、「博多」への熱き想いを抱いているがゆえに衝突してしまった。今回、渦中の博多織工業組合・寺嶋貞夫理事長と日本和装・吉田重久社長の両者に、それぞれの胸中を語ってもらった。
―まず、裁判に至った経緯をお聞かせください。
寺嶋 もともと日本和装の吉田氏は福岡市出身で、こちらでは以前「九州和装振興協会」という会社で呉服販売をしていました。我々組合員も九州和装に商品を販売していた関係から、吉田氏より「博多織工業組合として当社の後援をしてくれないか」という相談があり、後援団体となっていました。
実はそのとき、販売方法に関するクレームが再三ありました。封書もあれば、組合員に直接電話がいったこともあります。着物の着付けを無料でするということで生徒を募集し、その後「研修」という名目でメーカーや展示会場に行き、そこで帯や着物を販売していたようです。
しかし、「博多織工業組合さんはこんな売り方をされるのですか」とお客さまに再三言われるものですから、我々も吉田氏を呼んで「こういうことをされたら困る。博多織は伝統工芸品で組合の信用にも関わるから、即刻、販売方法を改めよ」と忠告しました。
しかし一方で、九州和装は博多織の販売実績はかなりありましたので、それはそれとして認めます。またクレームは、あるいは同業他社が嫉妬ややっかみでしていることかもしれませんから、一概にすべてが本当のクレームというわけではないでしょう。しかし、何回かトラブルがあったので、我々は吉田氏に「そういうことは困る」と改善を促していました。
ただ、組合員も吉田氏の会社と付き合っていたところもありましたから、当組合も後援は継続していました。そのうち会社も大きくなって九州和装から日本和装となり、本社も東京へ移りました。
そして約2年前、(株)後藤の経営が行き詰まりました。後藤は子会社として(株)匠工芸を持っていました。そこを日本和装が買収し、職人や設備はそのままで「博多帯」を製造・販売しだしましたので、「これはまかりならん。即刻やめるように」と再々警告しましたが、先方はやめませんでした。
そうした経緯もあり、かつ日本和装の100%子会社ということも考えれば、我々中小企業の集まりの組合に加入させるということは難しいのです。組合加入の件で吉田氏がここに来たときは「加入は認められない。かつ消費者を欺瞞するようなことはやめるように」と言いましたが、向こうからこのような文章を送ってきました。(日本和装側の文章を指しながら)ここには「絶対に『博多帯』の販売はやめない」という趣旨のことが書かれています。
「博多織」という地域ブランドは、今年で770年という古い伝統があります。そうした伝統文化を守るために訴訟を起こしたわけです。損害賠償額は今までの製造から割り出し、原価や本数から約1億5,000万円という数字を決めました。
しかしお金を取る、取らないは別にして、やはり博多の文化を守っていかなければなりません。こんなことを許していたら、当組合も含めて伝統工芸品を扱う中小・零細企業が育ちません。
【文・構成:大根田 康介】
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COMPANY INFORMATION
博多織工業組合
所在地:福岡市博多区博多駅南1-14-12
TEL:092-472-0761
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