つい3カ月前は、連続爆発した東京電力の福島第一原子力発電所から放出される放射能汚染の恐怖にさらされていた福島県いわき市が、いま突然の「震災バブル」に沸いている。原発にかりだされる作業員や東電、日立製作所や東芝の社員たちでごったがえしているのである。
いわき市も東日本大震災の被害を受けた。海岸線沿いには津波が押し寄せ、家屋は倒壊し、道路は波打つ。5月末現在で305人が死亡、49人が行方不明になっている。そこを福島第一原発の事故が襲った。同原発のある福島県双葉町、大熊町からいわき市まで最短で30キロしかない。風向きによってはいわき市を放射能が襲いかねない。
1966年に14市町村が合併してできたいわき市は、静岡市と清水市が合併した2003年までは「日本一」という広大な面積を誇り、人口は36万人を数える県内最大の都市である。原発が爆発した3月中旬以降、同市を脱出する市民は少なくなかった。商店主からは「いわきはもうこれで終わった」という声も漏れ、閉店・休業する店も続出した。いわきといえば、旧常磐炭鉱の跡地で、映画「フラガール」でおなじみのスパリゾートハワイアンズで有名だが、同施設は震災の影響で、いまだに休業中だ。放射能の恐怖によって、福島県の太平洋岸(浜通りと呼ばれる)の中核都市いわき市は、パニック発生寸前だった。
ところが原発周辺の風向きが北西に向かって吹いていると分かり、汚染の心配は飯館村や福島市、郡山市のほうにあるとわかって、街の様子は一変した。パニックどころかバブルが始まったのである。
バブルの一因は放射能汚染から難を逃れようと、周辺市町村から転居してくる住民が後を絶たないことだ。タウン情報を提供している市内のネットサービス会社によると、2月には1,800件程度の賃貸物件の情報が掲載されていたが、いまでは数件しかないという。双葉町など原発立地周辺町村から逃げてきた人たちや郡山市から家族を「疎開」させた人たちがアパートや賃貸マンションを借り、いまや来年(12年)4月以降のいわき明星大学の新入生の下宿がないとまで言われる始末だ。
不動産賃貸物件についで需給が逼迫したのが、ホテルや旅館の客室状況である。約30件が加盟するいわき湯本温泉組合は、震災の影響でゴールデンウイーク時の予約のキャンセルが続出し、旅館経営者の間では一時は「倒産」や「廃業」までよぎったという。それが5月をすぎて、休業していた旅館や飲食店が続々と営業を再開し、いまや未曾有のバブル状態にある。被災者や疎開者の流入だけでなく、原子炉メーカーやゼネコンなどが「一棟借り」に近い形で、手当たり次第部屋を借りているというのである。
【尾山 大将】
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