中国山東省青島市郊外のホテルで、日々変わり行く中国を観察している現地滞在のフリーライターがいる。福岡と青島を定期的に行き来している彼に、リアルな中国の今をレポートしてもらった。
7月13日、中国メディアが貴州省で起こった「婦女暴行事件」を一斉に報じた。
事件が起こったのは今年(2011年)5月17日、貴州の高校で開催された麻薬撲滅運動の会合終了後の懇親会でのこと。開催場所の高校の校長は、会合に参加した役人たちの接待のため、26歳の女性教師に酒宴に参加するように命じたという。英語の臨時教師に採用されたばかりのこの女性教師は校長に命じられるまま、役人たちにお酌をして回ったらしい。多量の返杯を受け、酔っ払ってしまった彼女は帰宅する旨を校長に告げ宴席を出たところ、国土資源局の所長が公用車で送ってくれるというので同乗した。他の同乗者もいたので安心したのだ。
この所長、公務を理由に同乗者を官舎へ途中下車させ、女性教師もこれに従い官舎へ。事務室で待つこと数分、酔っ払っていた女性教師はついウトウト、気づくと同乗者はいなくなり、さっきまで穏やかだった所長が獣のごとく迫ってきた。彼女は慌ててトイレに逃げ込み内側から鍵をかけた。酔いがピークに達していた彼女はトイレのなかで寝込んでしまった。
次に彼女が目を覚ましたとき、彼女は事務室のとなりにある所長の寝室ですっぱだか全裸の状態だった。見渡すところ誰もいない。逃げるように帰宅した女性教師は思い悩み、翌日、母親に相談した。女性教師は婚約者にも相談し、「私が訴えなければ、私と同じ目にあう人がまた出る」と意を決して、公安(警察)へ届け出た。公安は事実関係を調査、トイレの鍵が壊されていたこと、寝室にはコンドームが残され、シーツの分析も行なった。女性の供述どおり事実関係は確認されたものの、公安より出た答えは「コンドームを使っているので、強姦罪には該当しない」ので示談を勧めたという。強姦罪は生殖器の接触を要件としているが、本件はコンドームを使用しているので直接の生殖器の接触はないという理屈らしい。
女性教師は示談に応じず、ブログでネット上に公開、うわさを聞きつけた地元の記者が再調査し、中国全土に広がることとなった。メディア各紙は、この当事者の役人は逮捕されるだろうとしている。また、役人接待の悪しき慣習に教師を巻き込み、女性教師に接待を命じた校長にも批判が集中しているという。ネット上では「女性教師の勇気に賞賛」「役人の恥」「これを許せばコンドームが売り切れる」などさまざまな書込みがされているようだ。
役人批判、政府批判に発展しそうなこの事件、中国政府は何らネット規制、メディア規制もしていないようだ。地方役人の腐敗の粛清のためか、多民族で構成される内陸部の地方はそっとしておこうということなのか。ありえない公安当局のへりくつは、公然と行なわれている悪しき慣習には介在したくないとの意思表示に思える。
【杉本 尚丈】
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