中国の自動車産業の現状を見ると、国内メーカーは政府が過去何度も整理統合を掲げているが、新規参入も手伝って、現在は約120社が乱立している。また、外資メーカーは依然として国内企業との合弁が進出の条件であり、車体組み立て工場の出身比率は50%までで、合弁相手も2社以内と決められたままである。わたしが最初に中国に駐在した1982年当時の自動車生産台数は22万台だったのが、92年になってようやく100万台を突破した。その後、2001年のWTO加盟の影響もあり、飛躍的な伸びを見せ、沿海部のモータリゼーションに火がついた。
この2~3年、自動車需要が急激に拡大した理由としては、それまでの新規需要に加え、車両更新の代替需要が新たに加わってきたことが挙げられる。いまだに公共交通機関は不備であるし、個人ユーザーの年間平均走行距離は先進国と比べて2~3万キロと長い。爆発的に車が売れ始めた02~03年の新車799万台が買い替えの時期にあたることから、引き続き車両更新の加速、代替需要の増加は今後も大いに見込める状況にあるのではないか。
08年のリーマンショック後、欧米、日本などの先進国が市場低迷に苦しむなか、中国はいち早く4兆元にも及ぶ内需振興政策を打ち出した。09年は異常事態ともいえるが、年間で430万台も増える実績を示した自動車に関して言えば、2009年3月に出した自動車振興計画が大いに奏功している。いずれにしても、中国はいつでも政策志向だ。中国の自動車産業に関わる人たちは、すごく頭が良いと思う。江沢民などはソ連の自動車工場に視察してから偉くなって戻ってきた。外資にとっては不利な政策も多い。
今後の中国の自動車市場は、実質で前年比8%程度の経済成長が続き、01年までの自動車振興策など、政策の後押しが続き、追い風となるだろう。8割強が新規購入形態であることを考えると、市場拡大の余地はまだまだあり、買い替え需要も期待される。免許人口も1億5,000万人、免許待機人口も7,000~8,000万人と言われ、エネルギーの問題はあるももの、当面、市場は緩やかではあるが、拡大していくだろう。
ただ、外資によって勝手なことはさせないという思いは強い。中国の本当のねらいとは、建前では、「世界に冠たる自動車産業の育成と国内市場の整備、また海外進出・輸出」と言っているが、本音は、「ただし、それはあくまで中国の自主ブランドで実現すること」だと。ある中国高官の比喩発言がある。「われわれはウィンブルドンにはならない!」と。言い換えれば、場所(市場)だけ提供して、プレーするのは外国人選手(外資メーカー)だけにはしないぞ、ということ。
昨今、中国市場において、欧米企業、台湾、韓国企業の存在感が高まってくるなか、日本企業の存在感が薄くなっていると言われている。大手企業ですら、「中国ビジネスのスペシャリスト」の不在が懸念されるなか、中小企業においてはなおさらだ。対中ビジネス環境がより複雑になっていくなかで、産業界一体となった対応が、より重要になってくるのではないか。
【杉本 尚丈】
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