ここで重要なのは、復興特区構想など宮城県の復興プランは、県主導ではなく、民間のシンクタンクである野村総研の手で進められている点である(参考:http://www.nri.co.jp/news/2011/110414_2.html)。無論、復興に民間の知恵を借りようとするのは悪いことではない。問題は、この構想が、「地元の意見を無視した」かたちで進められていたのではないかという疑問があることだ。
この件については、日本共産党の機関紙である「しんぶん赤旗」が報じている。同記事によれば、村井知事は4月25日の記者会見で、会議の委員選定について問われた際に、「あえて地元の方はほとんど入っていただかないことにした」と表明したという。その理由として記事では、「地球規模で物事を考えているような方に入っていただいて、大所高所から見ていただきたいと考えた」と話した、と伝えている。
この事実を考慮して松本前大臣の発言を読み解くと、「民間シンクタンクに丸投げした復興プランが地元の反発を生んでいることはないんだな。ちゃんと漁港集約に関しても地元の漁業者や漁協の同意を得ているのだな。それをしっかり詰めたうえで国に方針を持ってこいよ。それが君の仕事だぞ」と言っている、とも読めるのである。
村井宮城県知事は、あの松下政経塾出身であり、宮城県議を3期務めた後に知事(現在2期目)になっている。自衛隊経験はあるが、民間企業での経験はないようである。松下政経塾と言えば、有名な政治家養成塾であり、最近は「民主党7奉行の会」のメンバーである前原誠司、玄葉光一郎、野田佳彦、樽床伸二らが出身者である。
ところが、松下政経塾出身者はどうも評判が悪い。昔ながらの叩き上げの政治家とは異なり、インテリぶりが鼻につく。それでいて、今の民主党政権を見れば分かるように実務能力はなし。全部官僚丸投げである。村井知事が野村総研に委託した復興構想も、その「インテリの発想」が垣間見える。無論、大胆な構想を掲げるのが悪いわけではないが、これは問題である。
実は、震災で甚大な被害を受けた南三陸町や石巻市など宮城県の沿岸を、筆者も先月上旬に見て回った。震災から3カ月というのにまだ撤去されていない瓦礫は残っていたし、線路どころか駅まで消滅していた地区すらあった。だから、このような大災害から立ち上がるとき、ときに従来の発想から脱却した構想も必要になるだろう。外部の知恵も必要かもしれない。その意味で、筆者は村井構想を全面的に否定するつもりはない。
しかし復興は、地元の人間と手を携えて行なうべきであるのもまた事実だ。前出の「赤旗」の記事によれば、次のように書かれている。
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik11/2011-05-29/2011052901_02_1.html
赤旗の記事は、地元紙の「河北新報」からの引用である。また、宮城県のウェブサイトによると、県復興会議の議長は元東大総長で三菱総研理事長の小宮山宏氏。その他にも外交評論家の寺島実郎氏や、日本政策投資銀行参事役で地域エコノミストの藻谷浩介氏など12人。このうち県内出身者が2名だというのだから、視点はたしかに村井知事の言うとおり、「地球規模で物事を考えている」かたちになるだろう(参考:http://www.kahoku.co.jp/spe/spe_sys1062/20110420_12.htm)。
政治というのは「コンセンサス」(合意)を作る仕事である。だから、村井構想がそのまま地元の古くからの漁業者を始めとする地元の意見を無視してそのまま実現するというのは早計だろう。しかし、この人選を見ていくと、知事側の理念が先走り、それに民間の知識人やコメンテーターが乗っかる。政府の「復興構想会議」が批判されたのと同じ構図になっている。
それを松本前大臣が懸念したのだろう。旧知の間柄だから、多少語気を強めて「ちゃんとやれ。民間に丸投げの構想案を持ってきても国は困るんだ」と言ったと推測できる。だから、「物言い」はともかく、松本前復興大臣の発言は、この地元の意見集約の部分に関してはさして問題になるものではない。
<プロフィール>
中田 安彦 (なかた やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。
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