木村氏は、原発推進と電力会社の経営体の維持を掲げる守旧派官僚で、官邸の攻勢を押し止める役目を担ってきた省内の重要人物である。その彼がエネ庁次長に着く以前の、経産省商務情報政策局担当の審議官時代に所管していたエルピーダで、インサイダー取引をしていた疑いが持たれている。
当時彼は台湾まで出向いてエルピーダの提携先探しに関わり、エルピーダの救済を決めた責任官僚である。当局の調べに対して木村氏は、「取引口座は妻名義で妻がやったこと」「台湾との提携などは日経が報道して周知の事実になった後で株を買っており、インサイダーではない」と主張しているらしい。しかし、それをエルピーダへの出融資を決めた政府系金融機関の幹部は、「台湾との提携話は経産省が中心になってやっていて、彼しか知らない。自分でリークして書かせて、周知の事実を演出したのではないか」と自作自演を疑う。
これで経産省の幹部官僚のインサイダー事件は、05年3月に中原拓也係長が担当していたチノンの再建に絡んだ事件(中原氏は在宅起訴され有罪判決を受けた)、05年6月に判明した中富泰三大臣官房企画室長が支援決定前のカネボウの内部情報を知って役所の裏金2,400万円をカネボウ株取得に投じたケース(中富氏は経産、法務両省の官房長クラスの話し合いによって、刑事罰を受けることはなかった)に続いて3件目である。しかも、経産省は直近には、西山英彦審議官の臨時採用職員との不倫騒ぎも表面化したばかりでもある。不祥事続きなのだ。
そんなさなかの6月24日、松永和夫事務次官は「日本中枢の崩壊」(講談社)を著した古賀茂明氏(大臣官房付)に、7月15日付での早期勧奨退職を命じた。東電に関して減資や債権放棄、経営陣の総退陣といった厳格な整理的な手法による「東電処理策」をしたため、そのコピーが政府内の要路に幅広く出回ったことでも知られる改革派官僚の1人だ。
彼は過去のインサイダー事件―とりわけ中富氏が絡んだインサイダー事件で、当時の経産省中枢、北畑隆生経済産業局長(後に事務次官)や石黒憲彦官房総務課長(現商務情報政策局長)らがどう関わり、どうもみ消したかに詳しい人物である。「古賀をこのまま置いておいては面倒なことになる」―そんな計算が松永次官ら事務方中枢にあっても、不思議ではない。
組織防衛に走る経産省主流派は、異論派を切り捨て省内言論の統制に血眼になっている。菅政権による攻撃をかわすためである。そして菅首相退陣後、何食わぬ顔で電力と原子力の護持の旗を高く掲げるのだ。天下り体制も、もちろん維持継続である。ただ菅首相退陣まで、「死んだふり」をしていればいいだけである。
【尾山 大将】
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