高知県梼原(ゆすはら)町は同県北西部山間の自然豊かなまち。同町はその豊かな資源を活用し、風力・太陽光・小水力発電、木質バイオマス、地熱エネルギー利用、低炭素住宅の推進など自然エネルギーの活用に取り組み、環境モデル・タウンとして注目を集めている。それらの取り組みが実現された背景には、町民が町政に参画する意識をつくった前町長・中越武義氏の功績があった。
中越氏は1962年に梼原高校を卒業後、同町役場に入庁し助役を2期務め、97年12月から2009年12月まで3期12年間、町長を務めた。中越氏は、町長在任の間、休日に自己の軽トラックに乗り町内の端々まで回って町民の生活を把握し意見を聞いたという。その距離は年間で8,000kmにもおよんだ。一人ひとりの町民に年間で4~5回会って話を聞いたという中越氏は「町長室で話すのと違って、外に出て作業着で話すと格式ばることなく町民と意見交換ができた」と町内の現状把握と町民の意見把握に努めた経験を語った。
梼原町には1889年に合併した6つの村があり、それぞれの村に区長がいてその下に集落の代表者がいるピラミッド型の組織がある。地域の区長、農協、森林組合、商工会に参画してもらって各種計画が練られ町の基本構想として採用され、その経過のなかでその計画が町民に周知できる体制ができていたことも町民の理解を得ることに役立ったという。
同町の梼原町振興計画策定に当たっては、町がつくった計画を町民に示すやり方ではなく、町民が計画をつくるべきだと考えた中越氏は、梼原町振興計画策定委員会メンバーを公募し手を上げた町民12人全員を委員に採用した。その際、まず同委員会メンバーに町内全体を見てもらい、町の現状を認識したうえで、一人ひとりが今後どうすべきか意見を出し合ってもらった。それを集約すると環境、教育、健康という3K構想が出てきたという。その結果、出てきたもののひとつが自然エネルギーへの取り組み。町民が自分たちで積み上げた計画ができあがったことは町民の自信となり、次に進むステップとなったという。
そして、公募された町民で構成される委員会という新しいかたちで出来上がった計画について、町議会は真剣に審議をしたという。
町への要望が上がってくる際には、その要望が地域全体のためになるかどうかを要望者に問うとともに、それを実現するため自分たちにできることは何かをきいた。これを繰り返していくうちに「ただ要望するだけでなく、まず自分達でできることをやったうえで、足りない部分を要望する」という意識が町民に定着してきたという。
中越氏によると、これらの町政運営によって町民が町内の資源は何か、良さとは何かを考えることや自分たちのことは自分たちで考えるという雰囲気を醸成したという。原発の是非をめぐる問題が毎日のニュースを賑わせているなか、脱原発社会のためには、われわれ市民一人ひとりがどうすべきか考えて地域をつくっていく時代が到来しているのではないだろうか。
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