松本龍代議士が復興担当相を辞任する原因となった発言問題に関するマスコミ報道について、匿名の読者の方よりご意見メールをいただきました。以下、ご紹介いたします。
このたびの松本前大臣の病気については、大手マスコミ各位や世間の反応に看過しかねるものが多いがため、躁うつ病(双極性障害)の患者として、コメントを寄せさせていただきたいと存じます。
当方は患者として、躁状態のなんたるかを身を持って知っているため、松本氏についての報道が過熱し始めた当初より、「これは躁状態か、躁うつ病ではないのか」という疑念を持っていました。ただ誤診があっても困りますので、医師による診断が出るまで待っておりました。
松本氏に対して躁状態との診断が出た後ですら、「本当に病気なのか」とか、「政治家が病院に逃げ込むのは嘘を言っている時だ」とか、「あんなのは病気ではなく、本人の自覚の問題」といった声が多数聞かれます。しかしながら、躁うつ病患者に言わせれば、あれは典型的な躁状態であり、れっきとした病気なのです。
まずご理解いただきたいのは以下のような点です。
(1)躁うつ病は非常に苦しい病気で、その自殺率はうつ病を大きく上回り、20%前後と広く報告されています。なぜこれほどまでにたくさんの患者が自殺を選ぶのかというと、「病気によって社会生活が死んでしまうから」「今まで築き上げてきた社会的信用を躁状態での愚行によって一瞬で失ってしまうから」「躁状態でやらかした愚行を、うつ状態に移った後、激しく後悔し羞恥心に責められるから」などがあげられます。
(2)躁状態にある患者は、社会的逸脱行為をたくさんやらかし、それでいて自分は病気だという認識が無く、むしろ絶好調だと思っています。松本前大臣の行動は躁状態としては軽症であり、多くの患者は、社会的に許容されない言動、性的逸脱行為、散財による借金、組織人としてあるまじき行為などを繰り返して、社会生活から脱落していきます。
(3)この際、メディアの方に十二分にご理解いただきたいのは、躁うつ病は気分障害にすぎず、幻覚が見える病気でも、知性が落ちる病気でもないということです。このため、たとえば幻覚が見える病気である統合失調症の患者に対して、メディアは腫れ物に触れるような報道をするのに対し、躁うつ病患者に対しては、世間的な正義の観点から安直な罵声、非難を浴びせます。事情を知らない方には躁うつ病は、病気というよりも、患者の性格の問題や社会生活上の自覚の欠如に見えるものなのですが、うつ病が「なまけ病」ではないのと同様、躁うつ病は「暴言癖」ではありません。あらゆる精神疾患は社会の病であり、このことは躁うつ病にも当てはまります。躁うつ病患者は社会からドロップアウトさせられない限り、もう少し幸せに生きていけるのです。それをメディアがよってたかって、見る者が見ればひと目で病気とわかる患者に、浅薄な社会的正義からバッシングを加えているのですから、これでは社会の側が病気を悪化させ、同じ病気の持ち主への偏見をあおっているとしか言いようがありません。ただでさえ自殺のハイリスク軍である躁うつ病患者を、メディアがむち打ってどうするのでしょう。
専門家は躁うつ病のことをしばしば、「社会的予後が悪い」病気であると言います。病気自体は治すことができるが、病気の間に失った社会的信頼、社会的ステータスは、容易には戻ってこないという意味です。これは松本氏の今後の生活を想像すれば、容易に理解できる状況ではないでしょうか。さらにいえば、同じ躁うつ病の民主党議員であった、堀江ガセメール事件の故・永田寿康氏の「その後」を思い出してください。
松本氏が正確な意味で「躁うつ病」であるかは、報道内容だけからはわかりません。また、躁うつ病にもいくつかのタイプがありますが、どれに該当するのかもわかりません。松本氏が躁状態なのはたしかですが、これは本態性の躁うつ病とは違った原因でも起こりえます(たとえば抗うつ薬が効きすぎると、一般人にでも攻撃性が出ます)。しかし、躁うつ病だろうが躁状態だろうがポイントは同じで、「病人に世間的価値基準を当てはめるのは間違いである」ということは忘れるべきではありません。
躁うつ病はうつ病とくらべ発生率は10分の1程度ということもあり、世間の理解を期待するのも難しい部分もあるのですが、可能であれば、精神疾患患者への理解のある報道が増えてほしいものだと思います。貴社に期待いたします。
貴重なご意見ありがとうございました。
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