<情景2・2021年 この地上にひとりでは生きられない>
震災直後に生まれ「希望」と名付けられた彼女は、仮設住宅で生活した後、様々な家族が同居するコレクテイブの集合住宅のなかで育った。父親を失っていたが、町内会の顔見知り、ボランテイア活動で、そのまま住み着き、地元の女性と結婚した若い夫婦など、言わば「疑似家族」のような形で、15世帯がひとつの階に住んでいる。
家族単位で独立した住居を持つが、同時に共有スペースがあり、そこで当番制で食事を作り、ほぼ全員が顔をあわせて夕食をともにしている。掃除、菜園の世話、近所との交流など恊働でおこなう作業もある。そして、他人の子供の世話をする高齢者、パソコンを教えてくれる学生など、仕事以外の仕事を通して「向こう3軒両隣」が新しい器で復活された形だ。
失った住宅と土地を放棄し、国の買い上げに応じ、社会的企業として立ち上げた「三陸復興プロジェクト」が国からの資金をもとに、住民が共同で所有する土地に、地元の手で企画、設計、施工、そして運営を行なっている。
「遠くの家族より、近くの他人」、だれと、どのように食卓を囲んで「メシ」を食うか、何か、だれかのために働く。大げさな住環境論ではなく、ひとりでは生きられない、新しい家族の姿がここにある。
<2011年 結ぶ計画>
毎年、今回の震災犠牲者を上回る方々が、身元不明の自殺、行き倒れ、餓死、凍死などで「無縁死」で亡くなっている。これは、高齢者のみならず、明日はわが身と感じている若者にも共通する「社会恐怖」である。そして無縁を押しとどめ、どこかに自分をつなぎ止める手段を模索し、「共有(シェアー)」は、若者の間にたしかな価値として根付き始めている。ルームシェアーは、決して金銭的な困窮の末に選ぶ手段ではなく、自らシェアーをして得られる金銭以外の価値に重きを置いた多様化した住まい方のひとつである。
長期におよぶ復興計画において、遠隔地への疎開、あるいは既存空き家の活用、民間住宅の借り上げなど、可能な限り一直線の住環境ではなく、多様な家族形態、価値観に合った選択肢を用意し、そのためには「公共」が、公益の名の下に土地所有を含めた「私権」に積極的に介入すべきである。震災前から土地所有を原資として成立させた高齢社会の福祉スキームが破綻しているならば、震災で不動産価値を大きく失う住民に対して、公共賃貸で多世代が労働を共有しながら豊かな住環境をめざす、住と福祉の合体スキームが計画・実行され、それが全国のモデルとなるべきではないのか。
【佐藤 俊郎】
※一部表記の変更を除き、原文のまま。
<プロフィール>
佐藤 俊郎 (さとう としろう)
1953年、熊本県水俣市生まれ。九州芸術工科大学、UCLA(カリフォルニア大学)修士課程修了。アメリカで12年の建築・都市計画の実務を経て、92年に帰国。「株式会社環境デザイン機構」を設立し、現在に至る。「NPO FUKUOKAデザインリーグ」理事、「福岡デザイン専門学校」理事なども務める。2010年2月の糸島市長選挙に出馬し善戦するも、7,233票差で落選。11年7月、朝日新聞社「ニッポン前へ委員会」が募集した提言論文で応募作1,745のなかから、最優秀賞に選ばれた。
8月12日(金)午後6時30分から、ホテルオークラ福岡(福岡市博多区)で、佐藤俊郎氏の功績を讃える祝賀会を開催します。当日は、佐藤氏が受賞論文に関する講演を行なうほか、カルテットによる演奏、一流シェフ自慢の料理などをご用意しております。参加費は、ひとり1万円。先着申し込みとなっていますので、佐藤氏と親睦を深めたい方、最優秀作品賞に選ばれた論文の内容に深く触れたい方は、この機会に!
申し込み・お問い合せは、弊社(TEL:092-262-3388、担当:山下康、楢崎)まで。
■佐藤俊郎氏 朝日新聞社「ニッポン前へ委員会」提言論文 最優秀賞 受賞 祝賀会
<日 時>
8月12日(金) 18:30~(受付18:00~)
<場 所>
ホテルオークラ福岡3階 メイフェア
福岡市博多区下川端3-2
TEL:092-262-1111
<会 費>
1万円
<申し込み・お問い合せ>
(株)データ・マックス(担当:山下康、楢崎)
TEL:092-262-3388
FAX:092-262-3389
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