<情景3・2021年 「モノ」「カネ」よりも「ヒト」>
震災後、人口が激減した三陸の地方都市では大型商業施設が撤退(計画的に制限)し、商圏規模にあった小規模な商業拠点が再建された。そこでは、行政の出先機能があり、かつ地元高齢者への宅配・介護サービスを担い、子育て支援の託児所、あるいは地区食堂などを併設していた。言わば、地域の「元気力発電所」である。
そこは、沖縄:栄町の市場に似ていた。マチュグヮーと呼ばれる市場は元気な高齢者が、たしかに商売をしているのだが、商業施設と言うよりも、明らかに「福祉施設」である。経済行為では計れない「価値」がやり取りされ、今では「現代アート」の活動拠点も同居している。この元気力発電所には、朝から近所の高齢者(オバァ)が集まり、お話(ユンタク)をし、お茶を飲みながら農産物を加工し、商品を創って販売している。震災後そのまま、この街に住み着いた首都圏の女性3人が共同経営する食堂(ババーズ)は地域の高齢者のたまり場となり、毎晩、大家族のような雰囲気が醸し出され、笑い声が深夜まで絶えない。
大上段の「地域通貨」という前に「カネの経済」でない、「ヒトの経済」があり、地元の経済の半分が、ローカル通貨:リアスで行なわれ、貨幣と非貨幣の世界が混在する、懐かしい未来が再生されている。皮肉にも国家の年金など当てにしない沖縄県民(納付率)が、「ソーシャルキャピタル」と呼ばずとも、最も豊かな人間相互保障を維持しているモデルとなったのである。
<2011年 生き甲斐の計画>
震災復興の過程で、まず緊急物資という「モノ」が必要とされた。そして、その後「カネ」という義援金や補償金が提供された。しかしながら、その後の、復興は「モノ」と「カネ」だけでは不可能である。土地を去り、作業を奪われた農家の最大の悩みは「何もすることがない」「何もできない」である。つまり社会との関係性を断たれることは、生存の否定であり、精神の病を生み、最悪の場合、多くの人々が自らの命を絶つ。
ともかく、「労働」を創ることであり、被災者であろうとも、だれかのために役立つ実感を用意することに全力を注ぐべきである。瓦礫の撤去、仮設住宅での補修など、現地での作業に給与を支給し、復興の足場を自ら創っている実感を早急に用意することが極めて重要である。
不幸にして、今回の犠牲者の多くが高齢者であったが、本来、農村部の高齢者は「百姓」であり、身の回りのことは、自分でできる人々である。むしろ将来の計画においては、一旦、地域を離れる若者が、「モノ」と「カネ」の環境から離脱した時に、どのように受け入れるか、「もどる場所」を確保し、「ヒトの経済」が成り立つ仕組みの復興が最優先である。
【佐藤 俊郎】
※一部表記の変更を除き、原文のまま。
<プロフィール>
佐藤 俊郎 (さとう としろう)
1953年、熊本県水俣市生まれ。九州芸術工科大学、UCLA(カリフォルニア大学)修士課程修了。アメリカで12年の建築・都市計画の実務を経て、92年に帰国。「株式会社環境デザイン機構」を設立し、現在に至る。「NPO FUKUOKAデザインリーグ」理事、「福岡デザイン専門学校」理事なども務める。2010年2月の糸島市長選挙に出馬し善戦するも、7,233票差で落選。11年7月、朝日新聞社「ニッポン前へ委員会」が募集した提言論文で応募作1,745のなかから、最優秀賞に選ばれた。
8月12日(金)午後6時30分から、ホテルオークラ福岡(福岡市博多区)で、佐藤俊郎氏の功績を讃える祝賀会を開催します。当日は、佐藤氏が受賞論文に関する講演を行なうほか、カルテットによる演奏、一流シェフ自慢の料理などをご用意しております。参加費は、ひとり1万円。先着申し込みとなっていますので、佐藤氏と親睦を深めたい方、最優秀作品賞に選ばれた論文の内容に深く触れたい方は、この機会に!
申し込み・お問い合せは、弊社(TEL:092-262-3388、担当:山下康、楢崎)まで。
■佐藤俊郎氏 朝日新聞社「ニッポン前へ委員会」提言論文 最優秀賞 受賞 祝賀会
<日 時>
8月12日(金) 18:30~(受付18:00~)
<場 所>
ホテルオークラ福岡3階 メイフェア
福岡市博多区下川端3-2
TEL:092-262-1111
<会 費>
1万円
<申し込み・お問い合せ>
(株)データ・マックス(担当:山下康、楢崎)
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FAX:092-262-3389
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