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トリアス久山物語『夢の始終』(10)~出店競争
経済小説
2011年8月18日 07:00

<出店競争>

 平山が、久山町の構想を耳にして飛んできた理由は、想像に難くない。

 それは大手流通業の出店が困難であったからである。
 その当時、我が国の不動産市場が先高感に支配され、まとまった用地の入手が困難であったことと、大規模小売店舗法、いわゆる大店法によって、新規開発店舗の売場面積が厳しく規制されていたことによって、大型店舗の出店は大変な時間と労力を要していた(結果的に、出店さえすれば、その後の競合は緩いものだった)。

 土地バブルが崩壊したのは1992年、しかし、90年代の前半までは土地神話はまだまだ健在で「今、地価は調整局面に入っているが、やがて景気が回復すれば地価も戻っていくだろう」と、考えていた人が大半であった。

久山町 このため、個人の地主は、宅地、農地の別を問わず、手持ちの土地を手放そうとしなかった。
 とくに、大都市郊外の農家は、マンションデベロッパーが次々に札束を持って訪れるので、決して土地をまとめて売却することはせず、値上がりにあわせて少しずつ売っていこうと考えていた。このため90年代前半に誕生した大規模なショッピングセンターの主な用地取得のパターンは、斜陽産業の工場用地を買い上げたり借りたりするものだった。福岡市内のキャナルシティ博多などもこの部類かもしれない。

 せっかく用地を確保しても、今度は、大都市圏の主だった物件は、すべからく地権者や大店法に基づく地元商工会議所との調整、自治体議員などへの根回し、すり合わせの手間により、着手から開店まで10年以上かかることも決して珍しくなかった。

 このような事情があったため、大手流通業の幹部は、みな新商品には疎くとも、土地情報には敏感になっていたものだ。そして、このような時代に、売却希望ではないものの、福岡近郊に何万坪ものまとまった用地があり、町が中心となって、その開発構想を練っている、という情報を、小売業のコンサルタントをしていた平山が見逃すはずがなかった。

(つづく)

【石川 健一】

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<プロフィール>
石川 健一 (いしかわ けんいち)

東京出身、1967年生まれ。有名私大経済学卒。大卒後、大手スーパーに入社し、福岡の関連法人にてレジャー関連企業の立ち上げに携わる。その後、上場不動産会社に転職し、経営企画室長から管理担当常務まで務めるがリーマンショックの余波を受け民事再生に直面。倒産処理を終えた今は、前オーナー経営者が新たに設立した不動産会社で再チャレンジに取り組みつつ、原稿執筆活動を行なう。職業上の得意分野は経営計画、組織マネジメント、広報・IR、事業立ち上げ。執筆面での関心分野は、企業再生、組織マネジメント、流通・サービス業、航空・鉄道、近代戦史。


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