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トリアス久山物語『夢の始終』(11)~バリューセンター構想
経済小説
2011年8月19日 07:00

<平山、バリューセンター構想を語る>

 平山は、本藤の事務所にやってきて語った。

 「まだ日本では、日常の買い物といえばサニーのようなスーパーか、あるいは天神のショッパーズや香椎、原、福重にあるようなユニードの店舗のように、都市型のお店が大半です。でも、それは未来永劫、そうあるわけではあらしまへん。
 アメリカでは、一人一台のマイカーで生活してはりますが、そのため、消費者の日常の買い物の大半はショッピングセンターでなされています。

 そして、ショッピングセンターには、GMSや食品SMに始まり、日本でも最近増えているトイザラスのような専門店がぎょうさんあります。
 アメリカの庶民の所得は平均的な日本人よりもよほど低く、決して豊かではありまへん。
 それでもゆったりと暮らしてはるのはアメリカにはチェーンストアという仕組みがあるからですわ。そこで提供されている商品の価格は日本の半分です。

世界に出店をかけようとしているのがコストコという会社です... 私には、アメリカのコストコという、最近急成長してはるホールセールクラブという業態の企業なら強いコネがあります。これは、倉庫のような、天井高が10メートル以上の店で、それこそ天井まで鉄架台に商品がダンボールのまんま積みあがっていて、お客さんは、それを箱のまま買うんです。これを日本で初めて久山に誘致するのはどうでっしゃろ」

 平山は、最初のあいさつこそ標準語で話したが、天気の話に続いて本題に入ると、早くも関西弁でそうまくし立てる。
 「そのようなことは、私のような土建屋にはまったくわかりません。それに、コス何とかというお店も聞いたことがないですね。そんな倉庫のような店で食べ物を買うなんて、日本人の嗜好には遭わないのではないですか」と、本藤。

 「そんなことはないです。チェーンストアというのはシステムなんです。仕組みなんです。店舗形態はこれからは郊外型、商品は仕様書発注によるMD(マーチャンダイジング、品揃え)、マニュアルに基づく店内作業、ほかにもいろいろありますが、とにかく、これらの仕組が総体として機能して、その結果として日本の半分の物価ということが実現できるんです」と、平山。

 「いやいやアメリカの物価が高いとおっしゃるが、それは地価が安いからでしょう。日本ではバブルが終わりつつあるとはいえ、アメリカのように無尽蔵に土地があるわけではないし、日本の物価を半分にするなんて、ありえませんよ」と、本藤。

 「いやいや、日本の物価の半分など、まだまだ甘いです。実は、私がダイエー時代、中内にいわれて研究したのが、アメリカ流津業で最先端のウェアハウスストア、という業態です。これは、本当に日本の物価の数分の1を実現できる仕組みです。この業態でいま、世界に出店をかけようとしているのがコストコという会社です。私は、ダイエー時代のコネもありトップに会えますよ。そやから一度、アメリカにご一緒しまへんか?」
 平山は、アメリカ流の流通業が今後の日本の消費を変えていく、という持論をまくし立てた。

 それは本藤には、余りにも絵空事のようで、ほらを吹いているようにさえ聞こえたが、あまりに繰り返し、平山がアメリカ流通業の隆盛している状況を説くにつれて、「この男のいうことは、少しは筋が通っているのではないか」と、感じるようになった。
 そこで本藤は、2回にわたり、平山とともに渡米し、現地の最新流通事情を確認してまわった。

(つづく)

【石川 健一】

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<プロフィール>
石川 健一 (いしかわ けんいち)

東京出身、1967年生まれ。有名私大経済学卒。大卒後、大手スーパーに入社し、福岡の関連法人にてレジャー関連企業の立ち上げに携わる。その後、上場不動産会社に転職し、経営企画室長から管理担当常務まで務めるがリーマンショックの余波を受け民事再生に直面。倒産処理を終えた今は、前オーナー経営者が新たに設立した不動産会社で再チャレンジに取り組みつつ、原稿執筆活動を行なう。職業上の得意分野は経営計画、組織マネジメント、広報・IR、事業立ち上げ。執筆面での関心分野は、企業再生、組織マネジメント、流通・サービス業、航空・鉄道、近代戦史。


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