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トリアス久山物語『夢の始終』(15)~日本の流通事情
経済小説
2011年8月25日 07:00

<日本の流通事情>

 ひるがえって我が国ではどうか。

 戦後の高度成長期に入り、1950年代の後半からアメリカのチェーンストアを模範として大量出店・大量販売を目指すスーパーストアが登場した。
 それが今のダイエーやイオンだが、当初は、これらの企業も単独店舗か、せいぜい数店舗までの経営であった。しかしこれらの企業は、アメリカのGMSを参考に店づくりを始めた。
 これらのスーパーストアがアメリカ型のチェーンストアを目指すための経営理論をまとめ、これを浸透させることに尽くしたのが、経営コンサルタントの渥美俊一であった。渥美は、チェーンストア作りは、価格決定の主権をメーカーから消費者に取り戻すための革命である、と定義し、これら中小小売業の経営者を鼓舞し、その発展を支える精神的支柱となった。

ダイエー 渥美の著作には、我が国のチェーンストアのあるべき姿や今後進むべき方向性が、「商品」「店舗」「財務」「作業」「組織」「教育」といった大項目別に単純明快に描かれている。
「商品は、仕入から仕様書発注への転換を目指す」
「店舗は、5年もすると、有利な立地が変化してしまうため軽装備とし、短期で投資回収するべきである」
「財務は、回転差資金(小売業では、売上は仕入れてすぐにレジで現金回収し、原価は1カ月なりの支払サイトで支払うので、その差額)を出店資金として活用する」
 などである。

 しかし、これらの理想とはうらはらに、当時のわが国の事情として、モータリゼーションが遅れたため、スーパーの出店は、アメリカと異なる人口稠密な都市部での立地が先行した。
 そして消費者の生活水準も20年代のアメリカと比較するとまだまだ低く、衣料品・日用品より、まず食料という時代であった。このため大型店であっても食品の売上を外して考えることはしづらかった。
 ここに1階に食料品を、2階以上に日用品・衣料品の売場を配置した日本型GMS(ジェネラルマーチャンダイズストア)が成立した。立地も、モータリゼーション以前は、商店街や駅前などである。

 一方、郊外立地については、60年代後半から一般家庭に自家用車が普及、これに伴い、徐々に郊外型のSCが登場するようになった。大手GMSでチェーンストア経営理論どおりの郊外型の展開で、もっとも先行したのはジャスコ(現イオン)である。そして、90年頃までウォーターフロントなど「色気」のある立地の重装備店舗に固執したかと思うと、90年代後半からチェーンストア原理主義的な超軽装大型店に舵を切り、販売力を失っていったのがダイエーであった。

(つづく)

【石川 健一】

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<プロフィール>
石川 健一 (いしかわ けんいち)

東京出身、1967年生まれ。有名私大経済学卒。大卒後、大手スーパーに入社し、福岡の関連法人にてレジャー関連企業の立ち上げに携わる。その後、上場不動産会社に転職し、経営企画室長から管理担当常務まで務めるがリーマンショックの余波を受け民事再生に直面。倒産処理を終えた今は、前オーナー経営者が新たに設立した不動産会社で再チャレンジに取り組みつつ、原稿執筆活動を行なう。職業上の得意分野は経営計画、組織マネジメント、広報・IR、事業立ち上げ。執筆面での関心分野は、企業再生、組織マネジメント、流通・サービス業、航空・鉄道、近代戦史。


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