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トリアス久山物語『夢の始終』(18)~開発許認可取得に向けての奔走
経済小説
2011年8月30日 07:00

<開発許認可取得に向けての奔走>

 早速、本藤は地権者の取りまとめと開発許可の調整に入った。

 ひとことで開発許可といっても、ひとつの窓口で許可を得られるような簡単なものではない。
 土地政策に関する所管は、宅地(商業地域、工業地域、住居地域など)については今の国土交通省であり、都市計画法という法律で農地にまで規制をかけている。これに対して、農地については農林水産省が「農業振興地域の整備に関する法律(農振法)」という法律を設けて許認可権を握っている。

 都市計画法は、国土を利用目的に応じて色分けすることで、乱開発による混乱を避けて秩序ある土地利用を促そうというものだ。この目的のため、都道府県が、市町村が検討する都市計画に沿ってゾーンを色分けし、これによって商業地域、工業地域、住居地域といった用途規制や、市街化調整区域のように開発を抑制する区域を決定する。

 これは強力な規制である。
 もしある土地が、商業地域として指定されれば、容積率(土地の面積に対して、建ててよい建物の延床面積の割合)が最大で1,000%まで高まる。住居地域ではせいぜい300%までなので、ある土地が住居地域から商業地域に指定替えになったら2倍半床面積の広い建物を建てることができるようになり、それだけ建物の利用価値(賃貸収入等)も増すことになる。
 一方、市街化調整区域として指定されると建物を建てられなくなってしまう。

 このように、どのような用途地域に指定されるかによって、その土地の価値は大きく変わってしまう。
この色分けは都道府県知事に権限があるが、実際には、まず市町村が自らの都市計画の将来像を描いてこれを希望として上申し、これに沿って県庁で決定するので、市町村の権限が強いといえる。

久山町 農業振興法は、逆に農地のなかでも生産性が高い土地を今後も農地として保全していこうという主旨の法律である。
 農地は、農地法により原則として宅地に転用することは禁じられている。ただ、これは地元の農業委員会の許可を得られれば比較的簡単に宅地に転用できる。農業委員会とはいっても実態は集落の寄り合いのようなものだから、「ムラ」の事情が農地転用に同意的なら問題ない。

 しかし、農業振興法の対象農地となると、ことは簡単にはいかない。
 農業振興法では、農業生産に好都合なまとまった土地を、都道府県が「農業振興地域」として指定する。
 そして、そのなかでも「農用地区域」という重点地域を指定して、ここにさまざまな土地改良・灌漑などのさまざまな投資を重点的にしていく。「農業振興地域」「農用地区域」の指定は、県知事が権限を持つが、これも市町村が、地元の農業の発展に向けた計画を策定して、これに都道府県が同意するという立てつけになっている。そして、「農用地区域」に指定されると、その農地を宅地等に転換することは厳しく禁じられる。

 この仕組、どこか都市計画法と似ていないだろうか。
 これは、当時の建設省が都市計画法で農地にまでゾーニングの網をかけたことに対する報復措置として、農林省が逆の網をかけた、ということがいわれている。

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<プロフィール>
石川 健一 (いしかわ けんいち)

東京出身、1967年生まれ。有名私大経済学卒。大卒後、大手スーパーに入社し、福岡の関連法人にてレジャー関連企業の立ち上げに携わる。その後、上場不動産会社に転職し、経営企画室長から管理担当常務まで務めるがリーマンショックの余波を受け民事再生に直面。倒産処理を終えた今は、前オーナー経営者が新たに設立した不動産会社で再チャレンジに取り組みつつ、原稿執筆活動を行なう。職業上の得意分野は経営計画、組織マネジメント、広報・IR、事業立ち上げ。執筆面での関心分野は、企業再生、組織マネジメント、流通・サービス業、航空・鉄道、近代戦史。


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