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トリアス久山物語『夢の始終』(19)~市街化調整区域の解除
経済小説
2011年8月31日 07:00

<市街化調整区域を解除する>

 久山町では、先に述べたように小早川のリーダーシップで、多少の雑音は押さえて町内ほぼ全域を市街化調整区域にしてしまっていた。
 一方、バリューセンターの予定地は「農業振興地域」の「農用地区域」にも指定されていた。乱開発を拒み、古き良き農村を守ろうとした施策から、これは当然だろう。

農家の希望だけでは杭一本とて... しかし、これを解除するには、指定するのと逆の手順で、久山町で改めてビジョンを描きなおした上、県に「市街化調整区域」と「農用地区域」の指定をはずしてもらわなければならない。町役場では、ことは済まなかったのである。
 とにかく、農家の希望だけでは杭一本とて打てないのが当時の規制であった。その上、開発目的が小売業の場合は、大店法に基づく建物の設置者としての申請をしなければならない。これは、申請後、地元商工会議所を中心とする「商調協」で協議し、多くの場合、中小小売業者への配慮を名目に、開発側が希望する延床面積を削られることが多い。これが、設置者が行なう3条申請だが、次いで、営業社が5条申請を行なわねばならない。
 このような幾多の折衝を経て、ようやく農地を転用したショッピングセンターの工事のための整地を始められるのである。

 現在でこそ、地権者たる農家は、もうコメをつくるよりも、地代や売却代金が入るのならば、のんびり暮らしたい、ということで地元にショッピングセンターが進出するのは大歓迎である。
 役場も宅地・建物の固定資産税が入り、地域の雇用も増えるので大賛成である。
 以前は、大規模店舗の進出があるたびに大反対していた商店街もいまは、経営の継承を断念しているためたいした運動は起こらない。しかし、1990年代半ばの状況は、まだそのようなものではなかった。

 それに、都市計画法にしても農業振興法にしても、実質的な許認可権を握るのは、県庁の当該部署である。当然、知事の印鑑なしに決裁はなされない。それに県議や町議など政治家も介入してきて、その支持者に、工事の仕事など分け前を配ろうとする。
 これに対して、小早川前町長は、都市計画法では、町内の96%を市街化調整区域に指定(するように県に働きかけ、これを通)してしまった。これにより開発利権に上部団体の政治が入り込む余地をなくしてしまった。それに、町立中学校にプールを作らず、その代わり町内の県営河川に断りなく天然プールを作ってしまい、県当局からとがめられると、「いや、あれはアヒルの遊び場であって、たいそうなもんではないですたい」と、笑い飛ばしてしまったが、そのようなエピソードに事欠かない、県庁の幹部から見たら、まさにやんちゃ坊主であった。
 このため、県との都市計画法および農業振興法の協議は、大変な難航が予想された。

 ともあれ、まず本藤は、予定地の地権者に構想を説明してまわり、その賛同を得て、地権者会を立ち上げた。

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<プロフィール>
石川 健一 (いしかわ けんいち)

東京出身、1967年生まれ。有名私大経済学卒。大卒後、大手スーパーに入社し、福岡の関連法人にてレジャー関連企業の立ち上げに携わる。その後、上場不動産会社に転職し、経営企画室長から管理担当常務まで務めるがリーマンショックの余波を受け民事再生に直面。倒産処理を終えた今は、前オーナー経営者が新たに設立した不動産会社で再チャレンジに取り組みつつ、原稿執筆活動を行なう。職業上の得意分野は経営計画、組織マネジメント、広報・IR、事業立ち上げ。執筆面での関心分野は、企業再生、組織マネジメント、流通・サービス業、航空・鉄道、近代戦史。


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