中国山東省青島市郊外のホテルで、日々変わり行く中国を観察している現地滞在のフリーライターがいる。福岡と青島を定期的に行き来している彼に、リアルな中国の今をレポートしてもらった。
日本のAV女優たちがなぜ、これほど中国の若者たちの間で有名になったのか。規制のきびしい中国では、AV嬢が一般のテレビや新聞に登場することはなく、DVDが店頭に並ぶこともほとんどない。以前は、海賊版DVDが市場に氾濫してのたが、当局の規制により今では店頭であまり見かけられなくなった。今では専らインターネットのダウンロードサイトから海賊版のダウンロードを繰り返しているのであろう。
ここで、中国でもっとも有名になった日本のAV女優の例を紹介しよう。
日本のAV女優、蒼井そらさんは2010年3月にツイッターを始め、自身のつぶやきを開始したところ、多くの中国人の若者がフォロワー加わったという。さらに、同年に中国で発生した青海省地震の際、フォロワーの多い中国を心配して安否を尋ねるなどの行為が評価をさらに高め、ファンが急増した。
一方で、東日本大震災のときは本人の安否を心配する多くの書き込みが寄せられ、安全が確認されると「よかった。募金活動をするときは、協力します。海賊版ではなく正規版のDVDを買います。正規版の買い方を教えてください」と、今の中国を象徴するような書き込みもあったという。彼女のツイッターのフォロワー数は現在300万人を越え、今年1月には中国でCDを発売、歌手デビューを果たしている。5月の中国南昌国際モーターショーに登場したときは、多くの男性ファンの注目を引きつけ、一時入場制限をしたほどの人気ぶりだったようだ。
10年、中国のインターネット上で開催されたオンライン投票による「美人コンテスト」では、中国の有名映画女優や台湾の林志玲(リン・チーリン)、レディ・ガガなどを抑え、堂々の第2位になっているという。
こうした日本のAV女優たちは、中国の若者にとって「AVという架空の世界から降りてきた女神たち」なのだ。はからずもこの架空の世界を形成していったものは、海賊版DVDや違法ダウンロードなど中国に横行する「ニセモノ」文化である。スマートフォンなどの携帯端末で見られるように、規制しても次々と「ニセモノ」が作られ、市場に流通している。
この「ニセモノ」文化に支えられ、日本のAV女優たちは、「本物が天から降臨」するかのように人気を博し、中国では、本業と異なるタレント活動も可能となってきている。「ニセモノ市場の浸透に伴い、本物が衣服を着て(付加価値を付けて)中国市場へ進出する」これもひとつの中国市場進出のかたちなのだ。
【杉本 尚丈】
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