<特別対談>
前阿久根市長・竹原信一氏、建築家・有馬裕之氏、福岡市議・寺島浩幸氏
寺島 僕は、アップル社の社長・スティーブ・ジョブズ氏がスタンフォード大学の卒業祝に贈った言葉「明日死ぬつもりで今を生きる」が大好きです。ジョブズ氏は、毎朝、鏡の前で「もし明日死ぬとしたら今日のスケジュールはどれくらいするだろう」と、問いかけるそうです。また、「しないこと」が増えてきたら、何かを大きく変える時期だとしています。
有馬 アップル社はiクラウドをやろうとしている。ホストコンピューターという数千億円かかるものをやめて、全世界のさまざまなノウハウをどんなに小さなエリアでも個人でもネットワーク化することで最高のものがつくれるというものです。このような考え方に社会は入っています。そのことを政治家が確信を持って、ぜひ、ノレッジメントや情報というものを世界にとりながら、各地方の劣化しはじめたエリアがリアライズできるようになっていってもらいたいというのがジョブズ氏の座右の言葉なんですよ。
寺島 僕が言いたいのは精神論で、明日死ぬかもしれないと思うことで、目の前にぶら下げられた経済的利益、損得勘定から自分が乗り越えられるかどうかが、僕の日々のテーマということです。インターネットによる世界のマーケットに可能性があることは感じていますが―。
有馬 儲かるだけではなく、プライドが生まれるわけです。経済的に儲かるだけではダメです。その地域のプライドや地域に対する忠誠心、これは首長や行政に対する忠誠心ではなく、ここに住む満足度は経済に変えられないものです。たとえば、阿久根は素晴らしいんだと思うようにもっていくことがインターネットを道具にしてできると思います。
ただし、民間の立場で見ると、行政と民間の遊離感をものすごく感じています。みんなそのことを批判しています。
竹原 住民と離れているというのもありますが、私は何か社会を全部説明する時の説明材料が足りていない気がします。何かが見えていないんですよね。
有馬 バックボーンとしての思想だと思います。どういうまちをつくりたいのか、どういう市民でありたいのかということを持つべきですよ。
竹原 その基本とは何でしょうか。
有馬 東京や大企業中心ではなくて、地域ごとに素晴らしいものがあるということをもう1度フォーカスをあててやりつづけるべきです。
竹原 その『素晴らしいもの』とは。
有馬 その本人が『素晴らしい』と思うか、ですね。
竹原 住民が「自分とは何か」を忘れているんですよ。「自分がこの世に生まれて死ぬ。その意味は何か」という原点を見失っているから次に進めないんです。私自身はそれに気づいている気がしていますが、ほかの人にどう説明するか難しすぎるのです。
<プロフィール>
竹原 信一 (たけはら しんいち)
前阿久根市長・1959年、鹿児島県生まれ。元航空自衛官(88年退官)。阿久根市議を経て08年、阿久根市長選で初当選。ブログでの情報発信や市職員の給与明細全面公開など数々の"掟破り"の手法で市政改革に取り組んだ。11年、市長リコールにともなう出直し選挙において864票差で敗れ失職。同年、鹿児島県議選に出馬するも落選。
有馬 裕之 (ありま ひろゆき)
建築家・デザインプロデューサー・1956年、鹿児島県生まれ。京都工芸繊維大学卒業後、80年に(株)竹中工務店に入社。90年、「有馬裕之+Urban Fourth」設立。さまざまなコンペに入賞し、国内外で受賞歴多数。さまざまな地域活性の町づくり委員も務める。
寺島 浩幸 (てらしま ひろゆき)
みんなの党福岡市議会第7支部長、同福岡市議団副代表・幹事長・1961年、福岡県生まれ。福岡大学法学部法律学科卒業後、87年に福岡市役所に入庁。総務企画局総務部情報公開室、市長室、議会事務局調査法制課などに務め、2010年退職。11年に西区から市議選に立候補し初当選。
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