(株)環境デザイン機構の代表取締役・佐藤俊郎氏は、朝日新聞社「ニッポン前へ委員会」募集の提言論文に応募し、応募作1,745本のなかから最優秀作品賞に選ばれた。3月11日に発生した東日本大震災から、われわれはいかにして復興し、どのような未来へ向かうべきか―。地域のまちづくりに深く携わってきた佐藤氏の、その経験に基づいた提言を紹介する。
想像を遥かに超えた惨状を前に「計画」などという言葉にさえためらいを覚える。
「計画」を一瞬にして無意味に帰す、見えない、決して合理では判断できない非合理な「神の手」の存在すら信じてしまう。これまで「計画」という行為は、機能や効率、経済性といった「合理」のもとに行なわれてきた。今、大震災や津波が、再度起こりうる事を理解しても、故郷へ帰るという住民の「情」に似た非合理に対して、どのような論理(計画)が成り立つのか。もし、この震災が日本社会の「潮目」であるとするならば、失われた多くの犠牲に涙して、復興の未来を描かなければならない。それは計画を超えた計画であり、これまで誰も手がけた事が無い、極めて困難な計画である。
<なぜ「震災」ではなく「戦災」か>
東日本の被災地から届く映像は、まだ、鮮明な記憶にある阪神・淡路や新潟・中越の「震災」とは異なっている。崩壊した建物の無惨な瓦礫の集積ではなく、地理的な情報、都市的なコンテクストや「生活の記憶」がすべて失われ、無表情の冷たい平面が広がっている。それは「震災」ではなく「戦災」のイメージであり、一瞬にしてすべてのものが消し去られた爆心地の記録写真に近いものだ。それは地震と津波が複合した巨大災害であるとともに、原発をふくめ、多くの社会災害が同時に発生した人為的な側面を感じるからであり、なぜ世界で唯一の被爆国が、自ら被爆するという悲劇が起こったのか、という根源的な問いが、戦争に極めて類似しているからではないのか。
「戦災」とするならば、何と戦って敗れたのか。M9.0の地球の身震いは、本来、人間の営みとは何ら関係の無い自然の事象である。甚大な被害は、地球で泡沫の生活をする「人間」の社会が作った自らの被害である。仮に自然との戦いを放棄した社会があったならば、これほどまでの犠牲は無かったはずだ。この戦いを分析し、再度戦いに備える計画か、あるいは戦いを「放棄」し、自然の事象に寄り添い「地球は借り物」と考える計画かの分岐点にある。
<社会がつくる災害>
震災直前、私は「コミュニティが創る新しい高齢社会のデザイン(JST)」という企画調査のとりまとめ作業を行なっていた。調査対象地域である北九州市八幡東区は全国に先駆けて高齢化が急速に進行し、重厚長大の産業から環境モデル都市として産業構造の変換を行っているが、「縮退」に歯止めがかからない。急峻な斜面地は高齢化が進み、行政が未来永劫、都市インフラを維持する事が極めて困難な状況にある。
戦後、国策として持ち家政策が進められ、「土地を所有すること」が老後の生活を保障する基盤とされてきた。また、戦後、専業主婦を前提とした家族は、だれも「家族」の定義を疑う事が無い自明の事として、目に見えない生活保障として勤労世帯を支えてきた。そして経済大国を目指す過程で、多くの若い労働力が地方から都市へ送られ、そこで地域と分離した「会社社会」を形成していった。しかしながら今、急峻で道路にも接していない斜面において、多くの家が資産価値を失い、家族を失った孤独な高齢者の姿がある。そして社会から離れ、行き場を失った絆がある。
今度の震災で犠牲となった方々の正確な数字すら判明していないが、この犠牲者の数を上回る人々が、自殺で亡くなるという社会が現に存在している。家族にかわり「孤族」が、そして、絆に代わり「無縁社会」と表現される現実がある。これを「社会災害」と呼ばずしてなんと表現すべきか。
【佐藤 俊郎】
※一部表記の変更を除き、原文のまま。
<プロフィール>
佐藤 俊郎 (さとう としろう)
1953年、熊本県水俣市生まれ。九州芸術工科大学、UCLA(カリフォルニア大学)修士課程修了。アメリカで12年の建築・都市計画の実務を経て、92年に帰国。「株式会社環境デザイン機構」を設立し、現在に至る。「NPO FUKUOKAデザインリーグ」理事、「福岡デザイン専門学校」理事なども務める。2010年2月の糸島市長選挙に出馬し善戦するも、7,233票差で落選。11年7月、朝日新聞社「ニッポン前へ委員会」が募集した提言論文で応募作1,745のなかから、最優秀賞に選ばれた。
8月12日(金)午後6時30分から、ホテルオークラ福岡(福岡市博多区)で、佐藤俊郎氏の功績を讃える祝賀会を開催します。当日は、佐藤氏が受賞論文に関する講演を行なうほか、カルテットによる演奏、一流シェフ自慢の料理などをご用意しております。参加費は、ひとり1万円。先着申し込みとなっていますので、佐藤氏と親睦を深めたい方、最優秀作品賞に選ばれた論文の内容に深く触れたい方は、この機会に!
申し込み・お問い合せは、弊社(TEL:092-262-3388、担当:山下康、楢崎)まで。
■佐藤俊郎氏 朝日新聞社「ニッポン前へ委員会」提言論文 最優秀賞 受賞 祝賀会
<日 時>
8月12日(金) 18:30~(受付18:00~)
<場 所>
ホテルオークラ福岡3階 メイフェア
福岡市博多区下川端3-2
TEL:092-262-1111
<会 費>
1万円
<申し込み・お問い合せ>
(株)データ・マックス(担当:山下康、楢崎)
TEL:092-262-3388
FAX:092-262-3389
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