今回は8月4日に福岡アジア都市研究所の主催により、アクロス福岡国際会議場で開催された「中国経済講演会」。「日中ビジネスをめぐる法的問題の新しい動き」と題して、北京中倫弁護士事務所パートナー弁護士 呉 鵬 氏が、流暢な日本語で約100名の参加者に語った。
<日本企業の対中投資にあたっての法的問題>
中国の会社形態には、「合資企業」「合作企業」「独資企業」の三つの形態があるが、最近はこれらの既存企業に対する資本参加または買収により、経営参加する企業が増えている。新規設立で投資を行なうより、「現地法人を活用して、いかに効率よく事業を進めていくか」、再編、再構築の時代となってきたようだ。
こうしたなか、企業の合併・買収にあたっては中国の産業政策上、いくつかの注意すべき点がある。ひとつは、独占禁止法上、「一定の売上を有する企業の事業者結合には事前に申告が必要である」ということだ。合併や持株会社設立などにより事業者結合をしようとする場合、参加する企業の売上合計が世界で100億元または中国国内で20億元、かつ2社以上が中国国内で4億元を超えていれば事前申告が必要となる。
もうひとつは、「外資による買収・合併には業種により安全審査ある」ということだ。軍需産業など国防の安全に係わるもののほか、農業産品・エネルギー・資源・インフラ・運輸サービスなどに係わる事業は、投資者の申請に基づいて、安全審査が行なわれる。他にも、商務部門の許可や特殊な業界の事前許可など、さまざまな許認可があるが、投資を行なう前に十分に調査しておくことが必要だ。
次に、日本企業が対中投資に成功するための「成功の要素」について話していこう。
まず、事前に詳細調査(デューデリジェンス)十分に行なうこと。これは重要だ、これをケチったら後で大失敗をする。市場調査をはじめ法務、財務、税務、環境、知的財産権のデューデリジェンスを十分に行なってほしい。特に、環境分野の法律は次第に厳しくなっており、環境への取組は重要になってきている。
次に、デューデリジェンスを行なうにあたって、経験豊富な税務・財務制度に詳しい会計士と、日中両国の法律に詳しい関連ビジネスに精通した弁護士を起用することだ。
会計と法律がわからない者が通訳をすることはもっとも危険だ。弁護士も得意分野をよく見極めて起用するようにしたい。
さらに、合弁のパートナーの見極めも重要だ。「法令を守る先か、信用があるか、自社との相乗効果が期待できるか、スムーズなコミュニケーションがとれるか」など十分に調査・検討していただきたい。場合によっては、表面的には合弁でも、実体は独資という「サイレントパートナー」という選択肢もある。
【杉本 尚丈】
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