<オフバランスに一心不乱疾走>
まず着手すべきは、(1)財務体質の改善、グループ企業借入1,000億円に迫る借入の圧縮、(2)企業リストラによるグループ企業の再編と再構築、という二大テーマであった。(1)の借入圧縮は、オフバランスの方策しかなかった。幸いなことに榎本・福岡地所には、中央区天神2丁目にあったNHK跡地を不動産証券化させた経験があった。要はこの方程式を福岡地所が所有する不動産に応用すれば良いだけの話だ。「キャナル博多」などの不動産を証券化することで、福岡地所の借入はドラスティックに減らすことが可能になったのだ。
まずは、2003年8月、八木氏が社長に就任した4カ月後に、(株)福岡リアルティが設立された。初代社長には一彦氏が就任した。建前では、「福岡投資法人リート」が取得した不動産の運用部門とすることを目的として設立されたことになっている。だが実際は、福岡地所所有の不動産をオフバランスして運用することが本音であった。04年3月には不動産証券化に関してのプロ、松尾正俊氏を社長に迎えた。そして同年7月には福岡リート投資法人を設立して1年後の05年6月に東証・福証に上場させたのである。
当然のことながら、この「福岡リート投資法人」に一番先に組み込んだ物件は福岡地所名義の不動産である。まずは「キャナル博多」が福岡地所名義から離れた。もちろん、同社の不動産だけをリートに組み込んでもビジネスとしては成り立たない。流通商業施設を中心とした物件を「福岡リート投資法人」に入れ込んでいった。これで助かった会社にスーパー「サンリブ」がある。現在、「福岡リート投資法人」は手堅い利回りを確保している。
福岡地所の新社長・八木氏はこの不動産証券化をスピードアップさせるため鞭を入れた。というのも、福岡シティ銀行の動向にある。福岡地所にとってこの銀行の役割は「我が財布」であった。西日本銀行に吸収合併されるとなると「我が財布」の役割が不可能になる。福岡地所の資金繰りは窮屈になる。この最悪事態を回避させるには「福岡リート投資法人」の実体的な動きを一刻でも早く稼働させることが求められていたのである。
<不動産証券化に成功し一安心>
時間との戦いには辛うじて勝利した。この不動産証券化によるオフバランス(企業にとって借入圧縮)の手法を巧妙に活かして財務の健全化を果たした成功の御手本が九州においては福岡地所となる。この手法を悪用して塀のなかに落ちたのが、丸美の金丸氏だ。金丸氏は中途半端なオフバランス手法(金融法令違反)が災いして破綻した。一時的には「借金が減った」と錯覚して頭に乗り過ぎたのである。
八木氏の顔色が冴えだしたのは07年頃からである。(1)の財務体質改善のメドがついたときだ。皮肉なものである。同氏の思想的根底に流れているのは「古き良き日本へ撞着」だ。別に民族主義的という強固なものではない。「アメリカの手法を強引に持ち込まれて日本は侵された」という嫌米の立場をとる。皮肉と言う意味は「アメリカから持たされた借入のオフバランス手法を駆使して福岡地所の財務復興がなされた」ということだ。
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