経営学を志す学生が現実の経営を知るとともに、実践的な経営を学ぶ機会を提供する目的で始まった「近大亭」。本町商店街に位置し、商店街の小売業に直接触れ、アクション・リサーチによる商店街研究を行なうための活動拠点となっている。その仕掛け人、近畿大学 産業理工学部経営ビジネス学科教授の日高健氏に、飯塚市の地域活性化の現状と課題について話を聞いた。
<商店街の機能とは>
―商品というのは、どういったものを扱われていますか。
日高 "黒酢ふくれ"という鹿児島の郷土菓子が中心です。これは熊本製粉さんと桷志田(かくいだ)黒酢さんの材料を使っています。もう1つ、合鴨農法で有名な古野農場でつくられた無農薬野菜ですね。これらをベースにして、地域性を出していこうとしています。
学生の活動として商品を販売しながら、近大亭をベースに、お客さんや商店のことを調査し分析しました。そこで「地域のなかの商店街」を考えたとき、求められているのは物を売る商業の機能だけではないという結論に至りました。それだけでは商店街の復興はあり得ないと考えています。
大型商業施設は時間を効率的に使える場所という機能を持つのに対し、商店街はゆっくりと時間を使える場所としての機能を持っています。この結論は、我々と商店街や周辺地域で商売をしている人たちと勉強会、ディスカッションして出したものです。
商店街は物を売る以外にたくさんの機能がありますが、そのなかの1つに「学生たちがチャレンジする場所」としての機能があると思います。学生は商店街に来ますが、お客さんにはなりません。むしろ、まちづくりの担い手です。そしてそうなるためには、チャレンジしたがっている学生を呼びこみ、実際に経営させてみることが必要です。そんなことは郊外の量販店ではできません。
この商店街は空き店舗がたくさんあり、減ったとはいっても通行人はまだたくさんいます。また、高齢者の知恵を学生に引き継ぐことができます。
また、商店街といえば高齢者のイメージがありますが、実はこの周辺は30代の子育て世代がけっこういます。ただし、今のところお客さんにはなっていない。そこで、商店街がたくさんの機能を提供できるようになれば、そうした人々も商売の対象になります。むしろそうならないと、商店街は生き残っていけないでしょう。
こうしたことを踏まえて、ワークショップで出てきた答えが「生きる力を学ぶまち」です。これが飯塚の商店街が向かうべき方向だと思います。中心市街地の真ん中に商店街があり、ここの活性化と言えば"商業の活性化"でした。もちろん、その機能がなくなったわけではありませんが、それ以外の機能が重要になってきたということです。
これまで商店街の機能、とくにチャレンジ、子育ての機能について話してきましたが、ここで抜けているのが「環境」と「産業」です。これがなければ"飯塚らしさ"がないと考えています。
【文・構成:大根田 康介】
<プロフィール>
日高 健(ひだか たけし)
1958年宮崎県延岡市生まれ。1985年福岡県庁入庁。1998年福岡県庁退職、近畿大学農学部専任講師。01年近畿大学農学部助教授。2003~2004年オーストラリア・クイーンズランド大学客員研究員。07年近畿大学産業理工学部経営ビジネス学科准教授、10年より現職。出身校、九州大学農学部水産学科、慶應義塾大学経済学部、神戸大学大学院現代経営学研究科(MBA)、博士(水産学)。
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