債権者説明会は、終盤に入った。司会者は規定の時間が過ぎていることを強調し、まだ多くの債権者が質問を終えていないのに、説明会を打ち切ろうとしていた――
債権者(女性)「今回のことは、7月25日に会議があって、その後連絡もなく、8月1日にいきなりこのような事態になったと私は感じています。しかもその事実は、そちらから送られてくる通知書でなく、ニュースで知りました。そんな不誠実な会社を信じられると思いますか? 東日本大震災の影響を受けたと言っていましたが、私も被災者の一人です。ここにいる大勢の方も、何らかの被害を受けた方が多いと思います。それなのに・・・・・・(涙)」
債権者「がんばれ!」
債権者(女性)「もう何を信じていいのかわかりません!これからは、ここにいる債権者だけでなく全国にいる債権者が、あなた達がどのような行動をとっていくのかを、ずっと監視しています」
回答者(栃木弁護士)「みなさんに大変ご迷惑をかけることになったのですけども、実は私は多くの中小零細企業の再建を担当してきました。まずこの相談を受けた時、私の事務所では、ちょっと力量が足りないと思った。ですがもう7月末には、75億円近くのお金が払えなくなっていた状況でした。みなさんのために、私よりも経験がある方が引き受けてくれたらいいのですが、そういう方が見つからなかった場合、直ちに破産的なことになってしまう。それを考えて、引き受けることにしました。
本来、民事再生というものは、現経営者がみなさんの債権を大幅にカットして、自分が経営を続けていくということになるんです。けれども、今回の場合には、それが許されない。最終的には、恐らくオーナー様の債権というのは、50億円程度になってしまうのではないかと思っています。
そこで、オーナー様の被害を少なくする一番いい方法は、この企業体を全体で購入してもらうことです。一応、ほぼ無担保の360億円以上の牧場や牛舎を持っていますし、牛が14万5,000頭残っているわけです。
日本一の牧場ですから、そこに価値を見出し、事業を継続していただける方をどうにか見つけ出していくつもりです。それができない場合、順次、牧場ごとに分割して売却し、みなさまへの弁済に充てていくしかない、と思っています。
したがって、私は安愚楽牧場の現経営者のために、代理人弁護士を引き受けたのではございません。日本一の牧場を社会的な資産として残すことが、社会のためになる。そういった信念を持って、この仕事を引き受けたのです。今後ともよろしくお願いいたします」
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