2011年8月1日、糸島を拠点に花キ輸送を手がける(株)イトキューの中原昌臣(なかはら まさおみ)氏が代表取締役社長に就任した。昌臣氏は創業者社長の長男として先代の事業を引き継ぐとともに、周辺領域での事業拡大をスタートさせた。一方、新聞輸送を行なう(株)古澤運送の古澤吉優(ふるさわ よしまさ)専務も同社3代目の後継者候補として、既存の強みを活かした新規事業を模索している。中小事業者の後継者たちが描く次世代リーダーの要件とは何か。当事者である2名の見解を聞かせてもらった。
<疲弊している業界環境>
古澤 祖父の代から続いている家業になりますが、現在も全国紙や九州ブロック紙などの新聞や折込チラシなどの運送を行なっています。しかし、新聞の購読者が徐々に減ってきていることや、大手運送会社からの参入がちらつくなかで、このまま新聞の運送だけを続けていくのは厳しいと感じています。実は、これまでタブー視されていた新聞輸送業者による新聞社以外の仕事も事実上解禁されており、自立した事業基盤の確立が事業の継続において急務となっています。
中原 国内物流需要が縮小するなかで、どうやって仕事を維持していくのか。これは多くの業界でも同じことが言えると思います。しかし、需要の縮小を嘆いても仕方ないので、私たちは依頼主に更なる付加価値を提供できるように、花キの保管・加工を新たな事業領域に加えました。
たとえば、海外からの花は仮死状態でボックスに梱包されて送られてくるのですが、こういった輸入花は、仮死状態の花を蘇生・復元させる作業が必要になります。従来であれば、荷主である商社などの指示で市場に出荷して、購入業者が各々花を蘇生・復元していました。しかし、輸入花は航空便で南米などからやってくるため、病気や痛んだものも少なからず含まれており、市場での購入者は多少のロスは仕方ないことでした。また、この事実が、市場での取引価格を抑える要因にもなっていたのです。
そこで弊社は荷主が市場に出荷する前、つまり弊社の倉庫で出荷待ちの間に、輸入花を蘇生・復元し、病気や痛んだものを取り除いてから鮮度保持を行ない市場に出荷できる加工サービスを始めました。そうすることで、依頼主、消費者、弊社ともにメリットが出ています。
古澤 なるほど。商品価値を守ることで、市場を維持していくというわけですね。ただ、うちは新聞という特殊な商品を運んでいますので、昔から当たり前のように、200㎞先でも10分以内の誤差で定刻通りに新聞を輸送してきました。これは、ほかの物流業界から見れば信じられないくらい高い品質のようです。ですから、この武器を活かすことが今の私の役割だと思っています。
中原 新聞の運送というのは時間にシビアだからこそ、そのぶん、信用度は高いでしょうね。たしかにその強みをうまく使えば、成長事業となる見通しもあるかもしれませんね。運送業者って、横のつながりに疎いんですよね。だから仕事を取り合ったりして、結局は価格競争になり、どこの企業も疲弊しているように感じます。
<自社の強みとできること>
中原 うちも以前は価格競争を行なっていましたが、同業者同士で協力して仕事を分担すれば、各々の手間も省けて思わぬ相乗効果を上げることもありますよ。地場の運送業者が地域の拠点に荷物を集めて、その拠点から全国へは私たちが運ぶというモデルです。これは双方納得がいくかたちでネットワークを築けたことが、一番の収穫だったと思います。
古澤 それは大きな収穫ですね。別の視点から一度、自分たちの分野を見直してみると意外に良いアイディアが生まれたりしますよね。うちもそういった意味ではまだまだ頑張るべき部分はあると思います。先ほど言われたように仕事の時間にシビアな分、そのほかの時間には余裕があるんですよ。
たとえば熊本に配送したとします。しかし、帰りには荷物はカラという状態なので、その余った部分を有効活用できないかなと考えています。たとえば前日の深夜に注文を受付けて、翌日の朝6時から10時の空き時間を使って配送する。そういう依頼があれば行きも帰りも配送することができるので、企業としてはさらに利益を上げることができます。もちろん、空き時間の活用ですので、少数の荷物でも預かることができますし、値段も安く引き受けることができると思います。
中原 たしかに、そうなれば依頼主・企業ともに得をしますよね。これからはさまざまな取り組みを、幅広い視点から見て考え出さなければいけないですね。私も先代が裸一貫から築き上げた事業を継承しつつ、さまざまな業種とつなげていくことで企業として成長していきたいと考えています。将来的には商品の保管・加工はもちろんですが、もっと生産者側の生産者側と消費者側の情報を整理し、物流を通じて地元の活性化のお手伝いをしたいと考えています。
【文・構成:藤谷 慎吾】
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<プロフィール>
中原 昌臣(なかはら・まさおみ)
1973年、福岡県糸島市(旧・前原市)生まれ。専門学校卒業後、愛知県のプラスティック総合製造メーカーに就職。2002年帰郷、(株)イトキュー入社。常務取締役、営業本部長兼企画事業部長を経て11年8月1日に代表取締役社長に就任。
古澤 吉優(ふるさわ・よしまさ)
1979年、福岡県糟屋郡志免町生まれ。西南学院大学法学部卒業後、ゴルフトーナメント運営や豆腐販売営業などを経験。2002年より(有)古澤運送 に入社。趣味はダーツとゴルフ。
<COMPANY INFORMATION>
株式会社イトキュー
代 表:中原 昌臣
所在地:福岡県糸島市多久819-1
設 立:1975年1月
資本金:1,000万円
株式会社古澤運送
代 表:古澤 常康
所在地:福岡県糟屋郡志免町南里4-12-1
設 立:1979年7月
資本金:500万円
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