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トリアス久山物語『夢の始終』(21)~小早川、役者になる
経済小説
2011年9月 2日 07:00

<小早川、役者になる>
 トリアスより以前、久山町内でのゴルフ場の開発の際は、県庁内で小早川の独断専行に眉をひそめる勢力があり、このため事務方が頑張ってくれても、最後まで許可が下りるかわからない、という状況があった。
 そのときは、待てどくらせど県庁から連絡がこなかった。そこで本藤は、よく知る県庁の課長に裏事情を聞きにいった。それによれば、久山町役場側の懸命の作業を受けて、県庁の各課もそれぞれに開発実行に必要な許可の伺いをあげてくれ、知事室まで到達しているが、ある有力な幹部が、町長時代何かと独断専行することが多かった小早川を苦々しく思っており、このため簡単にはできない、ということになっているのだった。

 本藤は早速小早川に報告した。

 「県議の元老や部長クラスの根回しをして本当に小早川さんがわれわれに頭を下げるのなら今度のことは水に流す。とのことです。町長、あまり横車を押したので、一度頭下げにこなければ!ということになっているようです。筋を通せ、ということでしょうな」 

「そうか、わかった。それでは頭を下げよう。本藤さん、一度場を作ってくれんね」と、小早川。

 そういうことになったので、本藤は福岡市内の料亭に一席を設けた。
 当日、本藤は、小早川に帯同してその料亭に向かった。

torius21.jpg 小早川は、仲居さんの案内で料亭の用意された座敷に案内される。
 仲居さんが、さっとふすまを開けてくれる。料亭の座敷には、十数名の席が用意されており、県会議員の有力者のほか都市計画部・農林水産部・商工部など関係部局長がずらりと座っていた。

 小早川は、そのまま座敷に入っていかず、ふすまの手前の板の間に正座した。そして、頭を板の間に擦り付けるようにして一礼したのち、
 「今回は、皆様には貴重なお時間を頂戴し感謝いたしております。また、これまで久山のため福岡県のためやってきましたが、いろいろとわがほうだけのことを考えて横車を押してしまいました。この場をお借りして深くお詫び申し上げます」
 そう言ってもう一度、小早川は板の間に額を擦り付けた。
 さらに、「どうかこれまでのことを水に流していただけませんか」と言って、もう一度、板の間に額を擦り付ける。

 「まあまあどうぞ」
 最も小早川を嫌っていた部長が無愛想に声をかけた。しかし、それでも小早川は座敷に入ろうとせず、「いやいや、私などここで十分でございます」と言い、動こうとしない。

 そうやって小早川が板の間でもったいぶっていると、だんだん居並ぶ県の幹部たちのほうがそわそわし始める。何度も小早川に無理を言われてきた幹部たちは、もう上下逆転し「先輩、奥へどうぞ」という目をしている。
 すると、小早川も一転、「よしわかった」という目をして座敷に上がっていった。そして、ちゃっかりと上座に収まっていた。

 このように小早川は一流の役者でもあった。このようにして過去のとげが抜かれていたことも、トリアスの開発許可がスムーズに進んだ要因だった。

(つづく)
【石川 健一】

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<プロフィール>
石川 健一 (いしかわ けんいち)

東京出身、1967年生まれ。有名私大経済学卒。大卒後、大手スーパーに入社し、福岡の関連法人にてレジャー関連企業の立ち上げに携わる。その後、上場不動産会社に転職し、経営企画室長から管理担当常務まで務めるがリーマンショックの余波を受け民事再生に直面。倒産処理を終えた今は、前オーナー経営者が新たに設立した不動産会社で再チャレンジに取り組みつつ、原稿執筆活動を行なう。職業上の得意分野は経営計画、組織マネジメント、広報・IR、事業立ち上げ。執筆面での関心分野は、企業再生、組織マネジメント、流通・サービス業、航空・鉄道、近代戦史。


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