ネットアイビーニュース

NET-IB NEWSネットアイビーニュース

サイト内検索


カテゴリで選ぶ
コンテンツで選ぶ
会社情報

経済小説

トリアス久山物語『夢の始終』(23)~本藤、町議会議員へ
経済小説
2011年9月 6日 07:00

<町議会議員を頼まれる>

 そんなある日、本藤は小早川に呼び出された。

指定された飲食店に出向くと... 指定された飲食店に出向くと小早川のほかに町内の元老の区長3人も同席するとのことだった。本藤は、小早川が現れるということで下座について待っていたが、小早川は入ってくるなり
「今日は、あんたが上座にすわりんしゃい」
 という。
「今日は、あんたにどうしても頼まないかんことがある」
 そういって小早川は切り出した。本藤に、1997年秋の町議会議員選挙に出馬せよ、というのである。

 本藤は、その場では諾否を回答せず、いったん預かった。その後、妻に相談するが、議員の妻ともなればいろいろつきあいも大変だろうということで猛反対された。しかし、小早川からは翌朝も、「どうしても、一期だけでも、やってもらわないかん」と、釘を刺された。

 久山町議会の議席数は当時13人。そのなかには、トリアスの開業で影響を受けるであろう商店街の関係の議員、トリアス開発の恩恵を受けない地区の議員、それに革新政党の議員もいて、基本協定の締結のための議決は1票差となった。これではオープン後の二期・三期の開発や、その他の町内のプロジェクトを実行できるか予断を許さない状況だった。町の財政も厳しくなり、環境重視の風潮も強まって、開発に対する反対勢力も増えていた。このため、確実に賛成する町議を確保することが必要とされていたのである。本藤は、小早川からの依頼であれば仕方がない、と町議に出馬することを決めた。

 やむを得ず本藤が引き受けると、小早川は早速、福岡市内のホテルで本藤の出馬の決起大会を設定してしまった。鶴の一声とはこのことで、小早川から市町村会へのバックアップの依頼があり、周辺の市長・町長が皆協力しての動員とあって、本藤が何の選挙に立候補するのかなど知らされていなかったが、建築業者などが続々と決起大会に集まってきた。
「あの本藤さんが、何に出馬するとかいな」
「参議院かいな。小早川さんの押しらしいぞ」
 数百人の支持者に囲まれ、小早川も久しぶりに熱気のこもった応援演説をやった。
 もっとも、立候補するのは国会議員でも県議でもなく久山の町議だというのだから、聴衆の力は抜けた。それでも、小早川は本藤を当選させるために精一杯の応援をした。この頃、小早川の体は既にがんに侵されていたのだが――。

 そして12月、開発許認可がとれた。

 地権者との契約も必要だったが、これこそ久山流であった。当時56人の地主に対し、「これからバリューセンターの借地契約をしてもらうので、各自実印を持参のうえ、集会所に集合すること」。そう小早川が号令すると、本当に地権者が集まってきて、何の質問も異論もなく、30分で全員の捺印が完了した。これには、平山も本藤も唖然とするばかりだった。

 このようにして、公式には98年1月にトリアスは着工する運びとなった。

(つづく)

【石川 健一】

≪ (22) | (24) ≫

<プロフィール>
石川 健一 (いしかわ けんいち)

東京出身、1967年生まれ。有名私大経済学卒。大卒後、大手スーパーに入社し、福岡の関連法人にてレジャー関連企業の立ち上げに携わる。その後、上場不動産会社に転職し、経営企画室長から管理担当常務まで務めるがリーマンショックの余波を受け民事再生に直面。倒産処理を終えた今は、前オーナー経営者が新たに設立した不動産会社で再チャレンジに取り組みつつ、原稿執筆活動を行なう。職業上の得意分野は経営計画、組織マネジメント、広報・IR、事業立ち上げ。執筆面での関心分野は、企業再生、組織マネジメント、流通・サービス業、航空・鉄道、近代戦史。


※記事へのご意見はこちら


※記事へのご意見はこちら

経済小説一覧
NET-IB NEWS メールマガジン 登録・解除
純広告用レクタングル

2012年流通特集号
純広告VT
純広告VT
純広告VT

IMPACT用レクタングル


MicroAdT用レクタングル