中村 ただ私が心配なのは、ベッドタウンで伸びた人口がストップしていること、それから農業・漁業というのはもともと日本全体で従事者が少ない。それなのに、それが宗像市の基幹産業であるとすれば、私としては「この先どういう風に行政が舵を切るのか?」と問いたいんですよね。
谷井 それはいつも議論になります。議会でも企業誘致の話になりますが、これはどこでも考えています。企業誘致すれば工場ができ、雇用も拡大されるでしょう。しかし、それは簡単にいかないですね。今の日本の経済状況を考えると。
もう1つは、宗像市はもともと住環境を重視したまちづくりを進めてきたということです。上下水道もかなり早くから整備していたおかげで、人もたくさん集まってきました。そうしたなかで、工場団地をつくるという選択肢をとらなかった。ですから今、企業誘致をするといってもそういう土地がないわけです。
私どもが考える宗像ブランドの資源として、歴史、文化、自然、食そして人があります。宗像市はベッドタウン化して高齢化が進んだと言われますが、そのなかでも市民意識が高い人たちがたくさん集まっております。ですから、ボランティア活動がすごく盛んです。
ボランティア団体は今、約300団体あります。それが1つの組織体系として、メイトム宗像(宗像市市民活動交流館)というところを活動拠点として提供しています。また、コミュニティ制度を確立しまして、市民参画を打ち出しています。ですから、市民が自分たちの手でまちづくりするということで、13地区にコミュニティ運営協議会というものをつくりました。
地方分権の次には地域分権があります。最も基礎となるのが地域です。コミュニティに交付金や市の権限などを渡して、自分たちで自分たちのまちづくりをしています。これは全国的にも進んでいます。
旧宗像市が旧玄海町と合併したとき、旧玄海町側からはほとんど異論がありませんでした。たとえば役場がなくなることへの反対というのは、どこでもたいていあるものですが、そこにコミュニティセンターをつくったのです。玄海に4つあり、そこに行けば住民票もとれますし、わざわざ市役所に行かなくていいわけです。
中村 非常にきめ細かいですね、そういう意味では。
谷井 ですから、宗像ブランドを使った「住んでみたいまちづくり」で人口を増やしていくという選択ですね。
中村 このまわりには福津市や宮若市など似たような都市があるわけでしょ。そのなかで「宗像市はこうなんだー」というPRはいかがですか。
谷井 それには、先ほど申し上げた宗像ブランドですよね。なかでもまず歴史ですね。古事記、日本書紀にも出てくる宗像大社、そしてユネスコの世界遺産暫定リストに載った沖ノ島と関連遺産群があります。今、県を中心に、世界遺産登録に向けて、ハードルは高いのですが、着実に歩を進めてきたと思います。
【文・構成:大根田 康介】
<プロフィール>
谷井 博美(たにい ひろみ)
1940年愛知県名古屋市生まれ。幼少より熊本で育つ。63年熊本大学法文学部を卒業し、福岡県庁に入庁後、福岡県鞍手福祉事務所に勤める。88年県立小倉高等技術専門校長に就任。89年県環境保全施設計画室長、92年、県農政部副理事兼農政課長、94年県企画振興部空港対策長、96年企画振興部長と、県の要職を歴任。99年に福岡県庁を退職し、空港周辺整備機構福岡空港事業本部理事に就任。01年宗像市助役、03年からは新宗像市助役を務める。06年宗像市長に就任。10年、市長選に当選し2期目を務める。
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