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トリアス久山物語『夢の始終』(26)~中内ダイエーよりの使者
経済小説
2011年9月 9日 07:00

<中内ダイエーよりの使者>

 本藤が、開発許認可の取得に奔走していた頃、ある弁護士より「貴方の事務所でお会いしたいのですが...」との電話を受けた。
 やがて、アポイントした時刻にその弁護士は訪ねてきた。

 その弁護士は、時候のあいさつをし、本藤が取り組んでいるバリューセンター構想について敬意を示した。そして、ダイエー本社・中内会長の直接の代理人として訪問している旨を明らかにしたうえで本題を切り出してきた。「そこで、率直なお願いなのですが、本藤さんがここまで地権者をまとめ開発許認可を進めてきたバリューセンターの運営会社を、ダイエーとの共同事業として進められないでしょうか」と。

 「共同事業ですって?」と、聞き返す本藤。

 「そうです。ダイエーとしても部分的に出資をさせていただいて、共同でバリューセンターを運営する、ということです」と、弁護士。

 「出資というのは、どのくらいの金額を考えておられますか」と、本藤。

 株式会社トリアスの代表取締役は、平山であったが、平山は元ダイエーのサラリーマンであり、今後かかる数十億円の事業資金を借り入れるための担保となるような資産はなかった。このため、資本力のある会社がトリアスに参画することは歓迎されるように思われた。

「それでは、その権利関係を5億円で... 「ダイエーはツインドームシティを作るのに1,500億円を投じています。それと比べれば、バリューセンターの建築費は、50億円もあれば十分でしょう。事業費の総額を出資しても構いません」と、弁護士。
 「それでは、トリアスがダイエーの子会社になってしまう。前町長も、町内の農家の財産である土地を一企業に委ねるような方策には同意するとは思えません」と、本藤。
 「本藤さんは、トリアスから委託されてバリューセンターの開発許認可と地権者とりまとめをされていると聞きましたが、いままでにどれくらいのお金がかかっていますか」と、弁護士。
 「う~ん、2億くらい使ったかな」と、本藤。
 「それでは、その権利関係を5億円でダイエーに譲渡願います。譲渡金は、株式会社トリアスへの出資にしてもいいですし、ほかの方法でもいいです。その後の建築費用もご心配をおかけすることはありません」と、弁護士。
 「そんな仮定のお話は、うかがいかねます。とにかく、関係者と話はしますが、本日はこれでお引き取りください」。本藤は、初めてダイエーの空恐ろしさを感じた。

 ダイエーは、ツインドームシティの際、当初5億円をダイエーが出資して設立した子会社で福岡市の用地を譲り受け、その後、同じ子会社に創業家の資産管理会社から10億を出資することで、ドーム球場という公器を中内家の資産にしてしまおうとした。
 そういえば、平山からも、中内がノドから手が出るほど欲しい、というか作りたいのがコストコと同じホールセールクラブという業態であり、そのため、中内は自分の名前を冠したK'ousというホールセールクラブの営業を始めていると聞いていた。それだけ中内のバリューセンターに対する関心が強い、ということである。

(つづく)

【石川 健一】

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<プロフィール>
石川 健一 (いしかわ けんいち)

東京出身、1967年生まれ。有名私大経済学卒。大卒後、大手スーパーに入社し、福岡の関連法人にてレジャー関連企業の立ち上げに携わる。その後、上場不動産会社に転職し、経営企画室長から管理担当常務まで務めるがリーマンショックの余波を受け民事再生に直面。倒産処理を終えた今は、前オーナー経営者が新たに設立した不動産会社で再チャレンジに取り組みつつ、原稿執筆活動を行なう。職業上の得意分野は経営計画、組織マネジメント、広報・IR、事業立ち上げ。執筆面での関心分野は、企業再生、組織マネジメント、流通・サービス業、航空・鉄道、近代戦史。


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