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トリアス久山物語『夢の始終』(27)~兵糧攻め
経済小説
2011年9月12日 07:00

<兵糧攻めを受ける>

 中内からの提案を預かった本藤だったが、予想したとおり、小早川も「せっかく平山の力を借りつつ、地元のイニシアチブでここまでたどり着いたのに、いまさら外部資本に支配されてしまうのはどうか」といい、ダイエー出資案には反対だった。

 平山は、というと、自分がダイエーから飛び出したことが圧力の原因になっているという自覚はあったので、当然に中内に対する反発があり、いまさらダイエーの出資を受けたくないという。それもそのはず、もしダイエーの資本が入れば、平山は、トリアスの代表取締役の立場から追われてしまうだろう。
 このため本藤は、翌週になってこの弁護士の事務所に電話を入れ、ダイエーによるバリューセンターの買収は受けられない旨回答した。

 それが苦難の始まりであった。

 トリアス側がダイエーに権利を譲らないと聞くや、中内は陰湿な妨害工作に出た。
 弁護士からの報告を受け、中内はすぐに秘書に命じた。
「財務本部長と店舗企画本部長を呼んで」
 ダイエーの内部で自分をCEOと呼ばせていた中内の威厳は絶対である。
 秘書は直ちに内線で両名を呼び出し、「今、大丈夫ですか?CEOがお呼びですので至急14階までお越しください」と、告げた。
 こうして、中内はトリアス妨害の手立てを整えていった。

「お受けできなくなってしまったんですよ......」 1週間後、トリアスの建築工事を請け負おうとしていた大手ゼネコンの営業部長が平山のもとを尋ねてきた。
 「実は、平山社長、これまで打ち合わせさせていただいたトリアスの建築工事なんですが、これをお受けできなくなってしまったんですよ」と、営業部長は済まなそうに切り出した。
「は?今何とおっしゃいましたか?」
「バリューセンターの新築工事はお受けいたしかねます。これまでにかかった設計費などは請求しませんから、それでどうかご容赦ください」
 そういって営業部長は、分厚い設計図書をその場に置いて帰ってしまった。

 代表取締役でありながら元サラリーマンであり、資産背景がなく、融資の連帯保証をしきれない平山は、資金力のある大手ゼネコンに工事を発注し、工事代金のほとんどを竣工後の支払いとすることで、何とか資金繰りしようとしていた。
 流通業者がショッピングセンターに出店する場合は、キーテナントクラスで十億単位の保証金を支払うのが慣習だった。店舗数が多ければ預かる保証金もかなりの額になる。そして、オープンまでにテナントが入れば、これらの保証金が入るので、それをゼネコンへの支払いに当てようと考えていたのである。そして、そのような支払い条件の厳しい工事を請けてもらえるのは大手しかない、と考えてダイエー時代取引のあった大手ゼネコンと商談をしていたのである。

 当初は、「平山さんのためなら是非やらせてもらいますよ」と、言っていた彼らは態度を豹変させた。

(つづく)

【石川 健一】

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<プロフィール>
石川 健一 (いしかわ けんいち)

東京出身、1967年生まれ。有名私大経済学卒。大卒後、大手スーパーに入社し、福岡の関連法人にてレジャー関連企業の立ち上げに携わる。その後、上場不動産会社に転職し、経営企画室長から管理担当常務まで務めるがリーマンショックの余波を受け民事再生に直面。倒産処理を終えた今は、前オーナー経営者が新たに設立した不動産会社で再チャレンジに取り組みつつ、原稿執筆活動を行なう。職業上の得意分野は経営計画、組織マネジメント、広報・IR、事業立ち上げ。執筆面での関心分野は、企業再生、組織マネジメント、流通・サービス業、航空・鉄道、近代戦史。


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