<40代技術者キャリア市場>
自分の会社では力が発揮できなくなった、しかし飼い殺しも勘弁願いたい。
そのような40代の極めて優秀な大手電機メーカーの技術者が転職を希望するとどうなるのだ。人材紹介会社に相談すると、まずは同業界の大企業に照会することになる。よほど特殊事情でもない限り、先程のいくつかの理由で門前払いだ。次に勧めるのは、同業界の中堅企業だ。ここで、マッチングが成立することもあるが、やはり技術者のレベルが高ければ高いほど、技術者に不満が残る。
余談だが、同業界の中堅オーナー企業の経営者がこの種の人材を熱望する傾向が強い。企業側は即決で入社を決める意思はあるが、オーナー会社には独特な雰囲気があり、技術者のほうが、入社時点で断るケースが多い。大手企業一筋の技術者の場合は入社しても数ヵ月で退職というケースも数多いので、良心的な人材紹介会社であれば勧めることは少ない。
次は欧米外資が候補となる。ただし、欧米外資は中央研究所や研究機関は本国にあることが多く、日本での研究は難しく、さらに「上級レベルの英語必須」というかなりのハードルの高さだ。さらに、経営トップを含めてすべてが若いことが多く、大企業出身の技術者は違和感を覚え、結果的に上手くいかないケースが多い。
<サムソンの独壇場>
ここでサムソンの出番だ。遅ればせながら、人材コンサルタントもサムソンを勧めることになる。もともと、日本の技術者を一番欲しがっていたのはサムソンだからだ。通常の流れだと、本人は後がないのでもちろんOKであるが、韓国企業と聞いて、奥さん含めて家族、時には親戚まで大反対になることが多い。
この場合、技術者が優秀であれば、サムソン側が奥さん(場合によっては子供を含めて)韓国に招待してくれる。そこでは、本人が働く中央研究所、家族の住む立派なマンション、子どもの通う学校などを案内される。もちろん、採用待遇条件も示唆される。さて、帰国後、奥さんのほうが入社に積極的になるケースが多い。
条件・年収はその技術者が勤務していた一流企業と比較して数倍アップするケースもある。さらに、当初は3年~5年の間は税が免除だった。実は、技術者本人は、何となく3~5年位しか勤務できないことは入社時点でイメージしている。技術を盗み終えたら後はお払い箱だからだ。しかし、誰もこの選択に異論は挟めない。残された唯一の選択肢だからだ。ただ、明らかに「国益」は損なっている。
10~20年前、サムソンの製品が大手家電販売店で並んでいても買う人はいなかった。デザインは野暮だし、機能的にも信頼がおけなかった。しかし現在は、性能的にもデザイン的にも、日本の企業に見劣りしない。世界一の電機会社になった。それもそのはず、優秀な電機メーカーの技術者はもちろん、自動車メーカーその他の優秀なデザイナーまで、日本から連れて行ってしまったのだ。サムソンは、研究の中心は本国の中央研究所で行なわれているにもかかわらず、横浜に研究所がある。そこのナンバーワン、またはナンバーツーは歴代日本の一流企業出身の技術者だ。もしかしたら、いろいろな経済調査、技術調査的な役割も担っているのかもしれない。
【富士山 太郎】
<プロフィール>
富士山 太郎 (ふじやま たろう)
人材紹介、ヘッドハンティングのプロ。4,000名を超えるビジネスパーソンの面談経験を持つ。紹介する側(企業)と紹介される側(人材)双方の事情に詳しく、各業界に幅広い人脈を持つ。
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