中国山東省青島市郊外のホテルで、日々変わり行く中国を観察している現地滞在のフリーライターがいる。福岡と青島を定期的に行き来している彼に、リアルな中国の今をレポートしてもらった。
世界に冠たる日本のモノづくり。日本人のほとんどはモノづくり技術において、今後も中国に負けるとは思っていない。はたしてそうであろうか。先般中国で発生した高速鉄道事故では、日本の新幹線の永い間に培われた安全技術が改めて高く評価された。しかしながら、こうした日本の安全技術の進化が、安全を大前提にした規制によって阻害されているように思えてならない。
そのひとつの例がアメリカで2001年に開発された電動立乗り二輪車「セグウェイ」の例である。日本では05年の日米首脳会談のときに、当時、アメリカのブッシュ大統領が小泉首相にプレゼントしてから話題となったものだった。しかし、あれから6年経った今でも、セグウェイは日本の公道を走れない。最近になってやっとつくば市で公道実験が開始された状況だ。
一方、中国では北京オリンピックの警備隊に中国版セグウェイが採用されたのをきっかけとして、様々な類似製品が開発されている。では、なぜ日本ではこんなに開発が遅れているのか。もともとセグウェイの原型を開発したのは日本人技術者であったのだが、こうした社会の劇的な構造変化をもたらすような未知の乗り物については、規制と既得権益がその進化を阻んでしまうのが日本の特徴でもあり、ある面、経済成長をも阻む要因にもなり得る。
もし、ブッシュ大統領が日本にセグウェイを持ち込んだとき、いち早く実証実験を行なったうえで、道路交通法の改正など規制緩和を行ない、日本版セグウェイ社会を構築できていたら、東日本大震災であれほどの帰宅困難者は出なかっただろうし、営業や通勤で車を使う機会は減っていたかもしれない。また、社会構造の変化にともなう経済成長も実現できていたかもしれない。
つくば市の公道実験により、将来、日本の公道をセグウェイが走れるようになって、日本の技術で日本版セグウェイが開発されたとしても、中国人から「中国のパクリだ、ものまねだ」と今とは逆のことを言われるようになるかもしれないのだ。
【杉本 尚丈】
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