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トリアス久山物語『夢の始終』(32)~オープン後の困難
経済小説
2011年9月21日 07:00

<オープン後の困難>

 オープン後もトリアスの運営は安定していたわけではない。
 まず、98年に消費税率が5%に上がったことをきっかけとした消費不況、周辺エリアでの競合店舗の増加、それにキーテナントのコストコの不振。
 コストコについては、自営業者などの仕入を主なターゲットとした業態で、もともとキーテナントとしての集客を見込めるものではなかった。が、それにしても予想以上に集客に苦戦している様子が見てとれた。
 このような背景から、トリアスの売上は前年割れを続け、2005年度は92億円であった。

トリアス久山物語『夢の始終』 トリアスのテナントの契約形態の主体は、各テナントの店頭での売上を、(株)トリアスの売上として計上し、売上に対して一定のパーセンテージをトリアスによる仕入とみなし、その差額を毎月トリアスが取っていく、というものであった。これをトリアスでは、ダイエーの用語を流用して「売上仕入契約」と呼んでいた。このため、各テナントの合計≒(株)トリアスの売上であり、テナントの売上が減少すると、運営主体の(株)トリアスの収入は、売上減と同じ比率で減少した。

 一方、(株)トリアスの費用は、地代、清掃・警備等の委託管理費、建物の減価償却費、本部人件費などであった。売場従業員は各テナントの所属であり、トリアスの従業員は、リーシング、広告宣伝、テナント管理、経理、総務といった本社的業務のみを担当した。
 この収益構造の意味するところは、会社の費用の大半が固定費であるため、売上が減少すると利益はそれ以上に激減するということであった。

 また、資金的には、減価償却費は資金の支出をともなわない経費だが、銀行への開業資金の返済は、逆に経費にはならないが資金の支出をともなう。そして、これは過去に使った金の返済なので、これも固定的であった。財務責任者は十八銀行から来ていたが、胃の痛む日々を続けていた。

 トリアスの資金繰難は、開発業務委託の本藤のビジネスにも影響を与えた。当初開発委託報酬として、用地契約から開発許認可取得までで2億円という契約であったが、これを分割払いにしてもらえないかと言われ、やむを得ず受けた。そして、今後とも開発関連でやっていただかなければならないことがあるので、といわれ、トリアスの一角に小さな事務所の提供を受けた。

 本藤は、今回の仕事が終わったら、トリアスの運営には係らず、心機一転、新たなプロジェクトに取り組もうと考えていた。
 しかし、これらの申し出の結果、トリアスから毎月いくらかの分割払報酬の支払を受けつつ、トリアス内の事務所に出勤する体制となった。このことにより、本藤のもとへは、駐車場の増設、パチンコ店出店にともなう行政対応など開発始終頼まれごとが持ち込まれていた。

(つづく)

【石川 健一】

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<プロフィール>
石川 健一 (いしかわ けんいち)

東京出身、1967年生まれ。有名私大経済学卒。大卒後、大手スーパーに入社し、福岡の関連法人にてレジャー関連企業の立ち上げに携わる。その後、上場不動産会社に転職し、経営企画室長から管理担当常務まで務めるがリーマンショックの余波を受け民事再生に直面。倒産処理を終えた今は、前オーナー経営者が新たに設立した不動産会社で再チャレンジに取り組みつつ、原稿執筆活動を行なう。職業上の得意分野は経営計画、組織マネジメント、広報・IR、事業立ち上げ。執筆面での関心分野は、企業再生、組織マネジメント、流通・サービス業、航空・鉄道、近代戦史。


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