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トリアス久山物語『夢の始終』(33)~平山逃げる
経済小説
2011年9月22日 07:00

<平山逃げる>

 そういうなかで、トリアス子会社における、平山の資金使い込み疑惑が発覚した。
 平山が取締役会の承認を得ずに支出した経費が数千万円あったのだ。
 その子会社は、トリアスから近隣への商品の宅配を一手に引き受ける構想で設立された配送会社であったが、営業は極度の不振だった。この子会社の資金調達は、トリアスから出資および関係者からの出資・融資によっていた。しかし調達した資金は開業費用・運営費用で食われ、その上に使途のわからない支出があり、倒産の危機に直面したのである。

 子会社のこととはいえ経営破綻となればイメージダウンは必至である。
 しかし親会社のトリアスも、ジリ貧の売上歩率収入を巨額の借入の返済に充てるという厳しい資金繰りを続けている状態だったため、この子会社を救済する資金はなかった。このため、トリアスは、開発受託収入を得ていた本藤に対して融資を頼み込み、本藤もやむなしとして7,000万円を貸し付けることとなった。

 あとは、トリアスが平山から使い込んだ資金を回収すればよかったのだが、トリアス社内ではこの問題を消化できず、平山は背任罪に当たるとして訴訟しようという方向となった。しかし、そうなればますますトリアスのイメージが悪化する。

トリアス久山物語『夢の始終』 そこでやむなく本藤は、平山から茂森への平穏な社長交代ができるように、地権者会への根回しをし、関係者の了承を得るなど調整に動いた。
 これにより平山は、「ニコニコ堂に招聘されたから」と、辞任することでひと段落した。公認には、ヤマックスの茂森社長が就任した。

 なお、トリアスが本藤から借用した7,000万円について、これを本藤から平山個人への貸付として処理してしまい、本藤のトリアスへの請求権は宙に浮いてしまうこととなった。

 後日、どうして契約書などを締結しなかったのですか、と本藤に尋ねたところ、「まあ、毎月の資金繰りが大変で、このときもあまりに急だったからね」とのことだった。
 このとき、本藤はトリアスの一角に自分の事務所を間借りしており、株式会社トリアスの内部者ではなかったものの、何かと地権者、行政、警察などとの交渉ごとを依頼され受けているためか、内部者の立場に近い諦観が感じられた。

 この点について本藤をよく知る人に聞いた。
 「トリアスに限ったことではありませんよ。小早川さんに頼まれて財団や第三セクターの開発を手伝っていた頃からいつも泥をかぶってきたんです。本人はあまりしゃべりたがりませんが、内紛や外部勢力の介入からプロジェクトを守るために全財産を投げ出してしまったんじゃないですか。挙句の果てに悪評を立てられる。男らしく潔いといえますがお人よしですよね。けれども、最後に身を捨てる人がいないとまとまらないのが開発事業というものなんでしょう」

(つづく)

【石川 健一】

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<プロフィール>
石川 健一 (いしかわ けんいち)

東京出身、1967年生まれ。有名私大経済学卒。大卒後、大手スーパーに入社し、福岡の関連法人にてレジャー関連企業の立ち上げに携わる。その後、上場不動産会社に転職し、経営企画室長から管理担当常務まで務めるがリーマンショックの余波を受け民事再生に直面。倒産処理を終えた今は、前オーナー経営者が新たに設立した不動産会社で再チャレンジに取り組みつつ、原稿執筆活動を行なう。職業上の得意分野は経営計画、組織マネジメント、広報・IR、事業立ち上げ。執筆面での関心分野は、企業再生、組織マネジメント、流通・サービス業、航空・鉄道、近代戦史。


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