＜リーシングあれこれ＞
平山が辞任し、茂森が社長に就任したトリアスには、開発のプロがいなかった。
平山が抜けたことで流通業界へのコネクションも縮小、不景気もあいまってリーシングは振るわなかった。
ショッピングセンターの運営というと、売上金の回収、テナントからの家賃の回収、場内の警備・清掃・設備管理、販売促進、財務・経理といったことが思い浮かぶが、これらはいわばショッピングセンターの日常業務である。ショッピングセンター運営は、不動産所有者として行なう場合と、所有者から委託を受けて手数料ビジネスとして行なう場合があるが、いずれの場合も、要諦となるのはテナントリーシングである。
それでは、ショッピングセンターのリーシングのポイントは何か、ということを考えてみたい。
もちろん、ショッピングセンターも、貸ビルと同じように不動産であるので、誰にも貸せず家賃が入らないより、値下げをしてでも誰かに貸して収入を得ることで資産の稼働率を上げたほうがよい、ということは容易に理解できる。
これがショッピングセンターの不動産賃貸業としての側面である。
一方で、ショッピングセンターの運営には、小売業としての側面があることを見逃してはならない。
小売業にとって、マーチャンダイジング（商品の品揃え）は最重要の経営課題である。本社機能のなかでも、商品の仕入部門は人数的にももっとも多いし、社内でも優秀な人材を配置しようとする。
それではなぜ小売業がマーチャンダイジングを重視するのか。
それは、想定するお客様が必要とする、あるいは期待するような商品が陳列されていないと、その店はすぐに飽きられてしまい、売上が落ちるからである。このことは、小売業の知識のない人でも直感的に理解できるであろう。
それでは、ショッピングセンターは、不動産を貸しさえすれば家賃収入が入るのになぜ、マーチャンダイジングを意識しなければならないのだろうか。
それは、お客様は、ショッピングセンター全体を、ひとつのお店として捉えているからである。そうである以上、ショッピングセンターは、その総体としていろいろなお店を並べることで、お客様にマーチャンダイジングを提供しなければならないのである。
福岡での事例をあげれば、天神コアは（チェーンストア経営理論では都心型のファッションビルはショッピングセンターとは呼ばないが）、10代の女の子を想定したマーチャンダイジングがなされており、当該客層向けのアパレル専門店が多数出店している。
同一ターゲット向けの店舗が多数存在することで、10代の女の子から見た品揃えの幅が広がり、当該客層の子にとっては楽しいビルになる。そのビル内の雰囲気は、中年男性など入るのも躊躇されるくらいのものである。しかし、10代の女の子から見れば、天神コアにいけば自分がイメージするファッションをすぐ見つけられるし、10代ターゲットのアパレル専門店も、天神コアだったら確実な集客が見込めるので、是非出店したい、ということになるのである。
同じ福岡天神でも、ヴィオロはまったく違う雰囲気なのがわかる。
ここは30代以上で高所得の女性をターゲットにしており、アパレルだけでなくインテリア・ファニチャーなども大人が満足できる高級品が揃っている。これも、ショッピングビルを運営する側が、そういう意図でお店を揃え、マーチャンダイジングを提供しているのである。
天神コアと目指すターゲットは異なるが、マーチャンダイジングの手法という意味ではまったく同じである。
【石川 健一】
＜プロフィール＞
石川 健一 （いしかわ けんいち）
東京出身、1967年生まれ。有名私大経済学卒。大卒後、大手スーパーに入社し、福岡の関連法人にてレジャー関連企業の立ち上げに携わる。その後、上場不動産会社に転職し、経営企画室長から管理担当常務まで務めるがリーマンショックの余波を受け民事再生に直面。倒産処理を終えた今は、前オーナー経営者が新たに設立した不動産会社で再チャレンジに取り組みつつ、原稿執筆活動を行なう。職業上の得意分野は経営計画、組織マネジメント、広報・ＩＲ、事業立ち上げ。執筆面での関心分野は、企業再生、組織マネジメント、流通・サービス業、航空・鉄道、近代戦史。
※記事へのご意見はこちら
※記事へのご意見はこちら
