中洲で勢いを増す中国人オーナーのナイトクラブ、そのルーツを探すべく小生は、中国遼寧省の中核都市・瀋陽市へと向かった。福岡からの同市への直行便は毎週火曜と土曜の各1便のみ。前回の上海遠征時のようなトラブルが起これば、帰国が遅れる可能性すらある危険な旅であったと言えよう。
あながち、小生が踏み倒した理不尽な飲み代(約13万円!)を回収するべく、上海からの追っ手が待ち受けている可能性もなくはない。現地で相場とされる分より少し多いぐらいのキャッシュを握りしめ、行くあてもなく街へと飛び出した。
日本人向けのナイトクラブが複数存在する日本領事館周辺は、ナイトクラブのみならず、和風飲食店やスナックらしき店も点在しており、やたらと日本語表記の看板が目に入る。前回でも触れたが、訪れた店とのやり取りがすべて日本語でOKなところが多いようだ。
のちに入手した、地元で発行されている日本人向けのフリー・ペーパーには、掲載されている各店の広告に割引情報もあり、活用すれば安く遊ぶことも可能だ。
そうして、今回訪れた瀋陽のナイトクラブ数店舗で共通していたのは店舗内の広さである。広々とした店内にゆったりとソファが並べられたボックスは、某海外大手家具店をほうふつとさせる。また、約1時間のショータイムが設けられており、歌や踊りで店のコンパニオンたちが客を魅了。ある店ではポールダンスが披露された。大ホールで日本のカラオケを思う存分楽しむこともできる。
これらの店は明らかに日本人をターゲットにしており、客も見た限り日本人ばかりだった。もっともなかには日本語がほとんど話せない娘もいるので、コミュニケーションとしてのカラオケや簡単なゲームなどの要素もある。相場は日本円にして、平均4,000円~5,000円。飲み歌い放題で女の子のドリンク(30元~50元)を入れた料金だ。
瀋陽は、漢方医学の発祥の地とも言われており、近年は医療観光による外国人観光客の集客計画が進められている。現在は、福岡・瀋陽間に週2便しかないものの、需要が高まりに合わせて便数が増えれば、飛行機で約2時間、比較的気軽に行ける距離ではある。日本のオヤジたちが瀋陽でハメを外して、日本に戻ってきたら真面目に働くというようになれば、西日本一の繁華街・中洲もダメージを受けるであろう。
ただし、これらの店で働く女の子たちが、「日本への出稼ぎ」に対して積極的なようには感じられなかった。出入国が厳しくなったという背景もあるが、日本より相場が安い(ほぼ同等の店もあるが...)とは言え、現地において高給なのは間違いないだろう。都市部において、海外のブランド品などがすでにあふれている中国では、日本で行く以上に夜の仕事でいい暮らしができるのかもしれない。ママ、チーママとなると、さすがに日本経験者が多いようだが、第一線で働く娘たち、とくに『90後』(1990年代生まれ)に至っては、独学で日本語を覚え、入店前から簡単な会話ができる人材も増えている。
故郷が目覚しい発展を遂げるなか、中洲でひと旗揚げた中国人オーナーたち。実家が比較的裕福だった、中国人のある若いママは、「中洲で水商売を始めてから一銭も仕送りしたことがない」という。むしろ今は、故郷に負けじと奮起している人も多いのではないだろうか。中洲で現在活躍する中国人経営者の背景には、自国の発展という背景がある。
長丘 萬月 (ながおか まんげつ)
1977年、福岡県生まれ。雑誌編集業を経て、2009年フリーライターへ転身。体を張った現場取材を通して、男の遊び文化を研究している。
*記事へのご意見はこちら
※記事へのご意見はこちら