中国山東省青島市郊外のホテルで、日々変わり行く中国を観察している現地滞在のフリーライターがいる。福岡と青島を定期的に行き来している彼に、リアルな中国の今をレポートしてもらった。
中国国営新華社通信などによると、上海市で27日に起きた地下鉄事故の負傷者は28日、284人になったようだ。うち95人が同日朝の時点で入院を続けているという。上海市の日本総領事館によると、日本人の負傷者は28日に新たに3人が確認され、計5人になった。
上海地下鉄公社は、社内調査の結果として、事故は人為的なミスによるものだったと明らかにした。事故区間で信号システムの電力がダウンして列車に信号を発信できなくなった。そのため自動制御を解除し、電話で車間距離を確保しながら進む手動運行に切り替えたが、担当者が手動運行に関する規定を順守しなかったため、追突事故が発生したとしている。この故障したとされる信号システムは、中国鉄道省傘下の国有企業の中国鉄路通信信号と仏重電大手アルストムの合弁会社「CASCO」が開発。上海地下鉄10号線では7月28日にも同じ信号システムが故障し、列車が逆走するトラブルも発生している。
一方で、地下鉄は事故の約4時間半後に全線で運転を再開したが、市当局の指示で一部区間の運転をいったん取りやめ、28日午後8時(日本時間午後9時)に改めて全線で再開したという。
こうしてみると、事故原因は7月に発生した浙江省温州市での高速鉄道追突事故とほぼ同じ結果のようだ。事故の翌日には何事もなかったかのように運転再開という図式も同じだ。今回も事故原因を究明するより、事故原因を追究するトラブルのほうが大きいとの判断なのだろう。それもそのはず、故障した原因を真に調べようとすれば、天津市、大連市、長春市、広州市、深セン市の地下鉄をすべて止めなくてはならなくなる。同じ信号システムを採用しているからだ。
中国では,ここ数年、1年あたりの鉄道の開通距離が2,000kmを超え、開発スピードに人材教育が追いついていないとの指摘もある。地元のある有力紙は、地下鉄の運転士の多くが、手動運転の訓練をほとんど受けずに、自動運転に頼り切っている、と報じている。まさに、最新式と言われるが「ハリボテの信号システム」と「初心者マークの運行スタッフ」によって運営されているのが実情なのであろう。「事故を起こしながら信号システムを改良し、職員が列車の運行に慣れるのを待つ」という事故対策なのかもしれない。
【杉本 尚丈】
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